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5 4人の邂逅
51 ミリー
しおりを挟むマリーンを追いかける少し前。
「ミリー……」
アイザックに呼ばれ、ミリーははっとなった。
「アイザック、麻酔か何かが効いて動けないんじゃ……?」
「……だいぶ効果が切れてきたようだ……」
そういうと、ベッドの上に倒れ伏していたアイザックが体をゆっくりと動かす。
日ごろの俊敏な彼の動きに比べると、とても緩慢な動作だ。
そんな彼の元に、私は駆け寄った。
「アイザック……とにかく無理はしないで」
「ミリー、大丈夫だ。そんなに強い薬ではなかったようだから……」
「そうかもしれないけれど……」
すると、アイザックは淡く微笑んだ。
「確かに、さっきに比べたら大丈夫そうね……マリーンさんを追いがてら救護班にもこの場所を伝えて、貴方を助けてもらうことにするわ」
そうして、私がベッドから立ち去ろうとしたところ――。
「きゃっ……」
アイザックの大きな手が私の手首を掴んだ。
振り返ると――彼が彼女に向かって口を開いた。
ひどく真剣なまなざしで、非常時だというのに私の頭はくらくらしてくる。
「こんな姿で情けないが――」
薬が回っているからか、それとも私の心臓のテンポがおかしいからか――相手が言葉を発するのに、やけに時間がかかって感じる。
心臓が早鐘に変わった頃――アイザックが言葉を発した。
「ミリー、俺はお前に同僚以上の感情を抱いている……」
「あ……」
好きな人から好きだと言われ、私の心の中には光が差してきたかのように温かい。
「だけど、貴女にはマリーンさんがいて……」
「お前も見た通り、俺たちは初めから愛のない夫婦だったんだ――別れてもらおうと思っている」
「子どもさんは……?」
「あの子に関して俺には身に覚えがないが――戸籍上俺の子だというのなら、ちゃんと父親としての責任は果たそうと思っている」
そうして、彼が続ける。
「全ての責任を果たしたら、ミリー、どうか俺と……一緒に……」
そこまで話したが――アイザックは口をつぐんだ。
彼の手先を見るにだいぶ力が戻ってきているようだ。
「夫婦になれることはなかったが、仮にも戸籍上は夫婦になった間柄だ。死なれたら目覚めが悪い……様子のおかしいマリーンと赤ん坊を助けてから――お前に改めて思いを伝えなおしたいんだ」
真剣な彼の願いに対し、私はゆっくりと首肯した。
「ええ……わかったわ――さあ、行きましょう、アイザック」
まだ体のよろめくアイザックの体を支えながら、私はマリーンとバッシュが駆けて行った方向へと歩を進めたのだった。
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