【R18】あなたには帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない。

おうぎまちこ(あきたこまち)

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5 4人の邂逅

51 ミリー

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 マリーンを追いかける少し前。

「ミリー……」

 アイザックに呼ばれ、ミリーははっとなった。

「アイザック、麻酔か何かが効いて動けないんじゃ……?」

「……だいぶ効果が切れてきたようだ……」

 そういうと、ベッドの上に倒れ伏していたアイザックが体をゆっくりと動かす。
 日ごろの俊敏な彼の動きに比べると、とても緩慢な動作だ。
 そんな彼の元に、私は駆け寄った。

「アイザック……とにかく無理はしないで」

「ミリー、大丈夫だ。そんなに強い薬ではなかったようだから……」

「そうかもしれないけれど……」

 すると、アイザックは淡く微笑んだ。

「確かに、さっきに比べたら大丈夫そうね……マリーンさんを追いがてら救護班にもこの場所を伝えて、貴方を助けてもらうことにするわ」

 そうして、私がベッドから立ち去ろうとしたところ――。

「きゃっ……」

 アイザックの大きな手が私の手首を掴んだ。
 振り返ると――彼が彼女に向かって口を開いた。
 ひどく真剣なまなざしで、非常時だというのに私の頭はくらくらしてくる。

「こんな姿で情けないが――」

 薬が回っているからか、それとも私の心臓のテンポがおかしいからか――相手が言葉を発するのに、やけに時間がかかって感じる。
 心臓が早鐘に変わった頃――アイザックが言葉を発した。

「ミリー、俺はお前に同僚以上の感情を抱いている……」

「あ……」

 好きな人から好きだと言われ、私の心の中には光が差してきたかのように温かい。

「だけど、貴女にはマリーンさんがいて……」

「お前も見た通り、俺たちは初めから愛のない夫婦だったんだ――別れてもらおうと思っている」

「子どもさんは……?」

「あの子に関して俺には身に覚えがないが――戸籍上俺の子だというのなら、ちゃんと父親としての責任は果たそうと思っている」

 そうして、彼が続ける。

「全ての責任を果たしたら、ミリー、どうか俺と……一緒に……」

 そこまで話したが――アイザックは口をつぐんだ。
 彼の手先を見るにだいぶ力が戻ってきているようだ。

「夫婦になれることはなかったが、仮にも戸籍上は夫婦になった間柄だ。死なれたら目覚めが悪い……様子のおかしいマリーンと赤ん坊を助けてから――お前に改めて思いを伝えなおしたいんだ」

 真剣な彼の願いに対し、私はゆっくりと首肯した。

「ええ……わかったわ――さあ、行きましょう、アイザック」

 まだ体のよろめくアイザックの体を支えながら、私はマリーンとバッシュが駆けて行った方向へと歩を進めたのだった。



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