【R18】あなたには帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない。

5 4人の邂逅

50 マリーン

なぜだろう。いつからだろうか。
　
　得体のしれない子どもだけれど、それでも自分の胎の中を動く生き物に愛着を抱いたのだろう。

　おなかに宿している間の、満ち満ちた幸福感。

　誰も自分のことを真の意味では愛してはくれなかったかもしれなけれど――。

　なぜだか二人で一人のまま妊婦生活を送っている時は、とてつもなく幸せだったのだ。

「父親が誰だったとしても、あなたは私だけの大切な……」

　心が落ち着く中、今までの自身の振る舞いを一気に恥じ始める。

　マリーンの瞳からは一筋の涙がこぼれる。

「私の……大事な……」

　赤ん坊を抱きしめ、呆然自失のまま過ごす。

　そうして――最後の結論に出た。

「ああ、そうか……アイザックは、もう死んでも生きていても一緒で……」

　マリーンはふわふわと柔らかな赤子の体をぎゅっと抱きしめた。

「ねえ、赤ちゃん……私はね……一人でも……貴方を……」

　その時、足元が失われ、現れた底なし沼の中に沈みこんでいくような感覚が走った。
　ずるずると沼の中に落ちていけば、もう二度と這い上がってこれないような……。
　
「私みたいな空っぽの女じゃ……貴方を育ててあげることができない」

　少しだけ瞳に正気が戻ったマリーンは、ギリりと歯噛みした。
　赤ん坊をかき抱く腕に力が入る。

「私にはあなたは……」

　ふらふらとした足取りで、赤ん坊を橋の上に置くと、欄干の上へとマリーンは登りはじめた。

「私はもうここで……」

　その時――。

「マリーン、待て！！　早まるな！！」

　――マリーン最愛の男バッシュが駆けてきたのだった。