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しおりを挟む数月後――無事に結婚式を終えたある日、屋敷の寝室にて――。
情事が済んで眠るエミリアの髪をファウストは優しく撫でると、過去を反芻しはじめた。
「他の王族や貴族達に比べたら、俺は力が劣っていた。魔術学校でも落ちこぼれだったよ。あの事件の際も、現場に駆り出されたものの、本当は逃げ出したかったんだ……だけど、君のか細い鳴き声を聞いて、なんとか下手な魔術で助けだしたんだ」
彼は続ける。
「あの事件で孤児になって、辛いのは君の方だったろうに……君はわざわざ魔術学校まで僕を探しに来てくれて、感謝を伝えてくれた」
幼い太陽のようなエミリアの姿が浮かぶ。
『魔術師様! きっとすごい魔術師様になれます! 私も皆を救うための勉強を頑張りますから、魔術師様も頑張ってください!』
――その一言を頼りに、これまで頑張ってきた。
「俺の方こそ、てっきり忘れられているものだと思っていたよ」
孤児出身だけれど特待生として魔術学校にエミリアが現れた時に、ファウストは歓喜した。
彼女は見た目こそ派手だが、不正なんかはとことん嫌う真面目な性格だ。
だからこそ、ファウスト自身も清廉潔白で高潔な人物になろうと振舞った。
そうして、絶対に不正行為はせずに――彼女自身が自身の元まで這いあがってこれるように見守り続けてきた。
三年前に研究室に来てからも、そっと彼女の成長を見守ってきたのだ。
「ここまでは美談だが……」
被検体のスライム関連の出来事には裏がある。
――もしかしたら、彼女も自分を好いているのではないかと考えたファウストは、スライムに魅了の魔術をかけてエミリアが手に取りやすい場所に置いた。
そうして、見事、彼女がスライムを手にして部屋に持って帰ったのだ。
彼女がどうするのかをこっそりと観察した。
エミリアがファウストの名を呼びながら、自分を慰めている姿を見て――。
これはよもや勝機があると思い、あえて捜索隊の話を持ち掛けたのだが――。
「実は、……エミリアが夜な夜なスライムで自分を慰めていたことを知っていた上に、俺がスライムと感覚共有していたと知ったら、果たしてどうなるのだろうか?」
あまつさえ、それで自身の欲望を満たしていただなんて……。
『ファウスト様、最低……』
眉をひそめながら、自分を罵倒する彼女の姿を想像した。
「気の強い彼女が、夜は俺に従順な姿もたまらないけれど……気が強い姿も堪らないな……」
考えるだけで脳天に甘い痺れが駆け抜けて、ぶるりと彼の身体が震えた。
向かうところ敵なしの魔術師長だが――新婚の妻の機嫌は損ねたくない――そのため、真実は黙っていようと心に決めている。
「ああ、愛しているよ、エミリア……君だけを一生離さない」
そうして――腕に閉じ込めた愛しいエミリアに向かって告げる。
彼の贖罪の気持ちの表れなのかどうかは分からないが、以降もエミリアの装飾品やドレスの類の贈り物が増え続けたのだった。
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