3 / 15
3※
しおりを挟む ゴトリとドアの向こうから音がした。嵯峨は誠にしゃべらないよう手で合図するとドアを開く。
かなめ、カウラ、アイシャ、シャム、パーラ、サラ、そして菰田がばたばたと部屋の中に倒れこむ。
「盗み聞きとは感心しないねえ」
七人を見下ろして嵯峨が嘆く。
「叔父貴。そりゃねえだろ?銃をバカスカ撃つのはアタシだってやってるじゃないか!」
「そうなんだ。じゃあ今回の降格取り消しの再考を上申するか?上申書の用紙ならあるぞ?」
「そうじゃねえ!」
「無駄だ、西園寺。上層部の決定はそう簡単には覆らない」
「カウラちゃん薄情ねえ。もう少しかばってあげないとフラグ立たないわよ」
かなめ、カウラ、アイシャがよたよたと立ち上がる。複雑な表情の彼らの中で、菰田だけは顔に『ざまあみろ』と書いてある。
「神前軍曹!これからもよろしく」
「西園寺さん、曹長なんですが」
「バーカ。知ってていってるんだ!」
かなめがニヤリと笑った。
「それよりアイシャ。いいのか?今からここを出ないと艦長研修の講座に間に合わないんじゃないのか?」
嵯峨が頭を掻きながら言った。
「大丈夫ですよ、隊長。ちゃんと軍本部からの通達がありました。今日の研修は講師の都合でお休みです」
「なんだよ。今回の出動のご苦労さん会に来るのかよ……せっかく一人分部屋が広くなると思ったのによ」
愚痴るかなめをアイシャは満面の笑みで見つめている。
「かなめちゃんなんか文句あるの?」
馬鹿騒ぎの好きなかなめの言葉にアイシャが釘を刺す。
「別に」
かなめが頬を膨らましている。
そこに島田が大き目の書類を持って現れた。
「神前います?」
「ああ、そこに立ってる」
呆然と立ち尽くしている神前に、島田がよく見ればステッキを持ったフリルの付いたドレスを着た幼女の絵が描かれたイラストを見せた。よく見ればそれは05式の腕部の拡大図で次のページにはにこやかに笑う同じ幼女の絵、さらに次のページには右太ももに睨み付けてすごんでいる表情の幼女の絵が描かれていた。
「お前、確かに5機以上の撃墜スコアでエース資格と機体のマーキングが許可されるわけだが……」
全員がその絵を覗き込む。
「これって『ラブラブ魔女っ子シンディー』のエミリアちゃんじゃない!いいなあ……私も機体カラー変えようかな」
シャムが素っ頓狂な声で叫ぶ。
「あえてパロディーエロゲキャラ。そして楽に落ちるヒロインを外してツンデレキャラを選ぶとはさすが先生ね」
アイシャは腕組みして真顔でイラストを眺める。
「駄目ですか?」
誠はそう言うと嵯峨のほうを見る。嵯峨の目は明らかに呆れるを通り越し、哀れむような色を帯びて誠を見つめる。
「神前。お前って奴は……痛いな」
かなめは呆れ半分でつぶやいた。
「それでこれが塗り替え後の完成予定図」
島田は最後のページに描かれた05式の全体図を見せる。まさに痛いアサルト・モジュールの完成図がそこにあった。
「却下だ!却下!こんなのと一緒に出動したらアタシの立場はどうなるんだ!」
「いいんじゃないのか?」
カウラが表情を変えずにそう言った。誠は半分冗談で出した機体のマーキングを他人に認められてしまったことに動揺していた。一気に場が凍りつく。
「お前なあ、こいつを小隊長として指揮するんだぞ?」
かなめが恐る恐る切り出す。
「別に機能に影響が出なければそれでいい。第二次世界大戦のドイツ空軍、ルフトバッフェのエースパイロット、アドルフ・ガーランド少将は敵国のアニメキャラクターのマーキングをした機体を操縦していた事は有名だぞ」
カウラは淡々と言う。
「じゃあ小隊長命令と言う事でいいですか?」
恐る恐る島田がかなめに尋ねた。
「いいわけあるか!神前!お願いだから止めてくれ!止めると言ってくれ!」
かなめは悲鳴にも近い声を上げる。
「じゃあ塗装作業に入りますんで」
そういい終わると島田は大きなため息をつく。
「アタシももっと色々描こうかな……」
シャムがうらやましいというようにそう口にした。
「お願いだから止めてくれ」
いつの間にか後ろに立っていた吉田が突っ込みを入れる。
「アタシはどうでもいいが」
続けて入ってきたランが投げやりにそう言ってみせた。
「馬鹿がここにもいたのか」
いつの間にか毎朝恒例の警備部の部下の説教を終えて通りかかったマリアが島田の図を見て思わずそうこぼした。
「ずいぶんとにぎやかになったねえ。茶でも入れるか?島田、サラ、パーラ。頼むわ。茶菓子は確か……」
嵯峨はそう言うとごそごそとガンオイルの棚を漁り始めた。舞い上がる埃に部屋のなかの人々が一斉にむせ返る。
「いいですよ!食堂で何か探しますから!」
島田はそう言うと、サラとパーラを伴って隊長室を出て行った。
「お茶だけじゃ味気ないわね。誠ちゃん、生協に買い出しに行ってくれる?」
「アイシャさん。僕がですか?」
「この場で一番階級が低いのがお前だ。仕方ない、カードは私が出す」
困惑気味の誠にそう言うとカウラはポケットから菱川重工豊川工場生協で使えるカードを差し出す。
「え!好きなの頼んでいいの?じゃあ……チョコレートアイス!」
「アタシはココアだな」
「あそこは酒は置いてねえんだよな……」
シャムとラン、かなめまで誠が買い出しに行くことを前提に話始める。
「じゃあ……行ってきます」
今一つ腑に落ちない表情で誠はスクーターのカギを取りに更衣室に向かった。
遼州同盟司法局。実働部隊第二小隊。
そこでの神前誠特技曹長の生活はこうして始まった。
了
かなめ、カウラ、アイシャ、シャム、パーラ、サラ、そして菰田がばたばたと部屋の中に倒れこむ。
「盗み聞きとは感心しないねえ」
七人を見下ろして嵯峨が嘆く。
「叔父貴。そりゃねえだろ?銃をバカスカ撃つのはアタシだってやってるじゃないか!」
「そうなんだ。じゃあ今回の降格取り消しの再考を上申するか?上申書の用紙ならあるぞ?」
「そうじゃねえ!」
「無駄だ、西園寺。上層部の決定はそう簡単には覆らない」
「カウラちゃん薄情ねえ。もう少しかばってあげないとフラグ立たないわよ」
かなめ、カウラ、アイシャがよたよたと立ち上がる。複雑な表情の彼らの中で、菰田だけは顔に『ざまあみろ』と書いてある。
「神前軍曹!これからもよろしく」
「西園寺さん、曹長なんですが」
「バーカ。知ってていってるんだ!」
かなめがニヤリと笑った。
「それよりアイシャ。いいのか?今からここを出ないと艦長研修の講座に間に合わないんじゃないのか?」
嵯峨が頭を掻きながら言った。
「大丈夫ですよ、隊長。ちゃんと軍本部からの通達がありました。今日の研修は講師の都合でお休みです」
「なんだよ。今回の出動のご苦労さん会に来るのかよ……せっかく一人分部屋が広くなると思ったのによ」
愚痴るかなめをアイシャは満面の笑みで見つめている。
「かなめちゃんなんか文句あるの?」
馬鹿騒ぎの好きなかなめの言葉にアイシャが釘を刺す。
「別に」
かなめが頬を膨らましている。
そこに島田が大き目の書類を持って現れた。
「神前います?」
「ああ、そこに立ってる」
呆然と立ち尽くしている神前に、島田がよく見ればステッキを持ったフリルの付いたドレスを着た幼女の絵が描かれたイラストを見せた。よく見ればそれは05式の腕部の拡大図で次のページにはにこやかに笑う同じ幼女の絵、さらに次のページには右太ももに睨み付けてすごんでいる表情の幼女の絵が描かれていた。
「お前、確かに5機以上の撃墜スコアでエース資格と機体のマーキングが許可されるわけだが……」
全員がその絵を覗き込む。
「これって『ラブラブ魔女っ子シンディー』のエミリアちゃんじゃない!いいなあ……私も機体カラー変えようかな」
シャムが素っ頓狂な声で叫ぶ。
「あえてパロディーエロゲキャラ。そして楽に落ちるヒロインを外してツンデレキャラを選ぶとはさすが先生ね」
アイシャは腕組みして真顔でイラストを眺める。
「駄目ですか?」
誠はそう言うと嵯峨のほうを見る。嵯峨の目は明らかに呆れるを通り越し、哀れむような色を帯びて誠を見つめる。
「神前。お前って奴は……痛いな」
かなめは呆れ半分でつぶやいた。
「それでこれが塗り替え後の完成予定図」
島田は最後のページに描かれた05式の全体図を見せる。まさに痛いアサルト・モジュールの完成図がそこにあった。
「却下だ!却下!こんなのと一緒に出動したらアタシの立場はどうなるんだ!」
「いいんじゃないのか?」
カウラが表情を変えずにそう言った。誠は半分冗談で出した機体のマーキングを他人に認められてしまったことに動揺していた。一気に場が凍りつく。
「お前なあ、こいつを小隊長として指揮するんだぞ?」
かなめが恐る恐る切り出す。
「別に機能に影響が出なければそれでいい。第二次世界大戦のドイツ空軍、ルフトバッフェのエースパイロット、アドルフ・ガーランド少将は敵国のアニメキャラクターのマーキングをした機体を操縦していた事は有名だぞ」
カウラは淡々と言う。
「じゃあ小隊長命令と言う事でいいですか?」
恐る恐る島田がかなめに尋ねた。
「いいわけあるか!神前!お願いだから止めてくれ!止めると言ってくれ!」
かなめは悲鳴にも近い声を上げる。
「じゃあ塗装作業に入りますんで」
そういい終わると島田は大きなため息をつく。
「アタシももっと色々描こうかな……」
シャムがうらやましいというようにそう口にした。
「お願いだから止めてくれ」
いつの間にか後ろに立っていた吉田が突っ込みを入れる。
「アタシはどうでもいいが」
続けて入ってきたランが投げやりにそう言ってみせた。
「馬鹿がここにもいたのか」
いつの間にか毎朝恒例の警備部の部下の説教を終えて通りかかったマリアが島田の図を見て思わずそうこぼした。
「ずいぶんとにぎやかになったねえ。茶でも入れるか?島田、サラ、パーラ。頼むわ。茶菓子は確か……」
嵯峨はそう言うとごそごそとガンオイルの棚を漁り始めた。舞い上がる埃に部屋のなかの人々が一斉にむせ返る。
「いいですよ!食堂で何か探しますから!」
島田はそう言うと、サラとパーラを伴って隊長室を出て行った。
「お茶だけじゃ味気ないわね。誠ちゃん、生協に買い出しに行ってくれる?」
「アイシャさん。僕がですか?」
「この場で一番階級が低いのがお前だ。仕方ない、カードは私が出す」
困惑気味の誠にそう言うとカウラはポケットから菱川重工豊川工場生協で使えるカードを差し出す。
「え!好きなの頼んでいいの?じゃあ……チョコレートアイス!」
「アタシはココアだな」
「あそこは酒は置いてねえんだよな……」
シャムとラン、かなめまで誠が買い出しに行くことを前提に話始める。
「じゃあ……行ってきます」
今一つ腑に落ちない表情で誠はスクーターのカギを取りに更衣室に向かった。
遼州同盟司法局。実働部隊第二小隊。
そこでの神前誠特技曹長の生活はこうして始まった。
了
17
お気に入りに追加
407
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました
ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる