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しおりを挟む「エミリア……君相手だと、私は情けない男になった気がするよ」
「あ、そうですか。世間では冷酷無慈悲な魔術師長と言われているはずの人なのに、ですね」
またもやツンケンしてしまった。
(ああ、私の馬鹿……またこんな態度をとって……どうして可愛らしく出来ないの?)
ちょうどその時、彼が腕を解いたと思うと、まるで黒豹のように滑らかな動きで私に近付いてくる。同時に、私の額に彼が繊細な指で触れてきた。
「あ……ファウスト様……」
思いがけない出来事に心臓がドキンと跳ねる。
「エミリア、優秀な君のことだ、熱でもあるのではないかと心配したが杞憂だったようだな。疲れが溜まっているのだろうさ。さあ、もう今日の実験はもう良い。早く屋敷に戻って休みなさい」
「はい……分かりました、ありがとうございます。それじゃあ……」
そうして、ツンツンしながら立ち去る私の背に向かって、彼が声をかけてくる。
「そうだ、被検体のスライムが1匹いないのだが、君は知らないだろうか?」
「……ええと……」
思わず言葉に詰まる。
少しだけ動揺したが――悟られてはいないはずだ。
(被検体のスライムは、私が実は持っている)
私がたじろいでいると、ファウスト様が続ける。
「まあ、気にする必要はないだろう。明日までに見つけられなかったら、捜索隊に依頼するまでだ。さあ、エミリア、部屋に戻りなさい」
「はい」
研究や仕事に関しては高い倫理観も持っており、時として厳しい彼だが……私が辛そうな時にはひどく優しい。
(当代一の魔術の使い手であるファウスト様……だけれど、他の職員たちから聞いてしまった……最近は第二王女との結婚の話が出ているんだって)
胸がずきんと痛む。
彼が他の女性と一緒に過ごしているところを考えると胸が軋む。
(違う、違う、別に私はファウスト様のことなんか好きじゃなくって! 尊敬する彼と一緒に働けさえすれば、それだけで良くって……!)
誠実で優しい彼に再会して、改めて惹かれてしまっているなんて……。
叶わない願いなのだから、気づきたくなかったのだ。
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