【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣

おうぎまちこ(あきたこまち)

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「エドガー、離縁してほしいの……」

「どうしてか言ってもらえるか、セイラ?」

 夫婦で住んでいる屋敷の、夫エドガーの執務室にて。
 部屋の中には、朝私が飾った白いエーデルワイスの花が一輪、ほのかに甘い香りを放っている。
 結婚して二年目の結婚記念日。
 喜ばしい日のはずの今日、執務机に座る夫エドガーに対して、私は離縁を詰め寄っていた。
 艶やかな漆黒の髪に、タンザナイトのような菫色の瞳。
 切れ長の瞳に、通った鼻梁、三日月のように薄く綺麗な唇。
 物静かで理知的で――誰もが憧れ、出会う女性を魅了する男性――エドガー・デイビーズから求婚されたのは、昨年の今頃、雪の降る中だったのを思い出した。
 学生時代からの知り合いだった商家出身の彼が、父の重ねた借金でいよいよ没落しそうな私の生家エバンズ侯爵家への資金援助を申し出てきたのだが――その見返りが私との結婚だったのだ。

(結婚を申し込まれた時は、本当に嬉しかったのに――)

 成績優秀で文武両道な彼に憧れる女性は、数え切れないほど存在した。とはいえ、エドガーは静かな青年だったので、女学生達も表立ってはしゃいだりはしていなかった。
 そうして私も、そんな女性達の一人だったのだ。
 彼とは学校の図書館で、何度か顔を合わせて、たまに共通の愛読書に関して話を弾ませることがあった。
 学生時代の良い思い出だと思っていたが、まさか彼も私を好きだったのかと胸が弾んだものだ。
 しかも、彼は才能を駆使して破産しかけていた実家を立て直し、今では国の経済界に影響を及ぼす大富豪の一人となっている。

(だけど……)

 周囲の皆は、口々に、エドガーの爵位目当てによる結婚だと言った。
 そうして、実際にそれを裏付けるかのように、彼が私の身体を求めてくるのは、月に一度あるかないかであり、しかも行為の内容も非常に淡白なものだった。
 そもそも、彼が私に笑いかけてくることだって、ほとんどないのだ。

 とはいえ――。

(彼自身の元来物静かな性格のせいよ……)

 そうやって、何度も自分に言い聞かせてきた。
 けれども、賢く美しい秘書サラに対してエドガーが微笑み、仲睦まじく過ごす姿を見せつけられた。だけど、それだけならまだ良かった。
 ある時、たまたま廊下ですれ違ったサラにこう言われたのだ。

『エドガー様は、大人しいのに……夜はひどく情熱的に求めてきてくださるのね』

 彼女の言葉で、私の心はまるでガラスのように粉々に砕け散ってしまった。
 夫としての義務か何かのようにしか彼には求められず、貴族としての矜持だけでなく、女性としての自尊心さえも、私は深く傷ついていたのだ。

(もうすぐ私の弟も成人……私を心配して、エドガーに借りた金を一緒に返していこうという話になったわ……)

 もちろん、まだ若い弟には、エドガーと秘書であるサラの関係については言えなかった。

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