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無垢な花嫁は、青焔の騎士に囚われる【短編版】

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 そう言って現れたのは――。

 ――藍色の短い髪に、宝石のような紫色の瞳をした――青い焔のような――。


(あ……)

 青年の姿を見て、私の瞳から涙が溢れ出す。


「死んであきらめられると思ったが、生き延びちまった」


 外套をかぶる青年が、艶めいた声で応える。
 そうして彼も剣を構えた。

 護衛騎士と青年――。

 どちらからともなく、剣がぶつかり合う。


「今までずっといろんなことをあきらめてきたけれど――どうしても、あきらめきれなかった」

 ぶつかった白刃同士の音が響く。

「一度あきらめたくせに、またほしくなったんですか!?」

 イリョスが剣を振り下ろす。
 重い一撃を青年が受ける。
 力が拮抗し合い、両者ともに譲らない。
 剣が上にあるイリョスが剣を押し込み、青年の剣が圧されてしまう。

「ああ、そうだな、地位も名誉も失う俺じゃ、あいつに相応しくないって――お前に譲ろうとしちまった時点で、一旦はあきらめちまった。でも、俺はまだ何も伝えてねぇ」

「伝えたら何か変わるというのでも?」

 受ける青年の刃に重さが増す。

「変わるかもしれねぇ、変わらないかもしれねぇ。それでも言うんだよ。今度こそ最後まで、あいつの言いかけた言葉を聞くんだ!」

 青年が剣を切り返し、イリョスの剣を巻き上げる。


「俺はあの女に――フィオーレに惚れてるんだよっ――――!!」


 金属がぶつかる音が響き、イリョスの手から剣が離れる。

 弧を描きながら、剣は地面に落ちた。


「――――っ!」

 肩で息をする青年の元へと駆ける。

 そうして、彼の名を呼んだ。


「デュランダル様!」


「フィオーレ!」


 駆け寄った私の身体を、彼が抱き留める。

「生きていたんですね……! 私……私は貴方のことを……」

「お前にまた会いたくて、必死になって生き延びちまった」

 そうしてきつく抱きしめ合った後――。

 彼が、私の頬にかかる亜麻色の髪を払いながら告げる。


「もう俺はエスト・グランテの将軍じゃない……ただのデュランダルだ。地位も名誉も何も持っちゃいねぇ……それでも言いたいんだ。フィオーレ、お前のことが好きだ。すべてを失っても、お前だけは失いたくなかった。意気地がなくて、伝えそびれちまった」


「私もです。デュランダル様……貴方が何も持っていなかったとしても、私は貴方が好きなんです!」


 そうして――。

 ――どちらともなく口づけを交わす。

 
 にゃおと白猫コハクの声がした。
 
 はっとして背後を振り返ると、いつの間にかイリョスは姿を消してしまっていた。

(いない……)

「きゃっ――!」

 考え事をする間もなく、デュランダル様の逞しい腕に横抱きにされてしまっていた。


「これから何度だって言うつもりだが、愛してるよフィオーレ……これから先、俺がお前を手放す気はねぇ」


 愛おしそうにデュランダル様が告げてくる。


「ああ、それにしたって、いよいよ、姫であるフィオーレを攫ったから、俺も世紀の御尋ね者だな」

「ふふふ、どんなデュランダル様でも、私はついていきます」 


 月に照らされながら、私達は幸せそうに笑い合ったのだった。



※※※



 歴史書では、悲恋の代名詞として描かれているデュランダル・エスト・グランテとフィオーレ・オルビス・クラシオン。
 
 彼らによく似た人物をはじめ、彼等の子どもや孫たちが、王位簒奪後のエスト・グランテ王国の中枢を支えていたことが後世には語り継がれており、二人は本当は生きていたのではないかという説が、後の研究者たちの間の見解である。


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