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無垢な花嫁は、青焔の騎士に囚われる【短編版】
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しおりを挟む(私がエスト・グランテに嫁いできてから、もう一か月が経つのね……)
宣言通り、夫になったはずのデュランダル将軍は、私の元を訪れてはこなかった。
(あの日以来、姿も見ていない……)
デュランダル将軍の屋敷で暮らすようになって、特に不自由のない生活をしていた。
仕事で忙しいのかもしれないが、彼が屋敷によりつくことはない。使用人たちの話によれば、酒屋に行ったり、他の女性の元へと遊びに行っているらしい。
(意を決して嫁いできたけれど、彼の言う通り、結局のところ捕虜でしかないのね……)
周囲からは一定の距離を置かれ、誰からも求められない。
慣れない土地ということもあり、日に日に心が沈んでいくのが自分でも分かった。
(ご飯も喉を通らないわ……)
涙が溢れ出して止まらない。
辛くて仕方がなかった。けれども――。
――実は最近、私の心の支えになっていることが一つだけある。
「コハク、おいで~~」
私が声をかけると、白くてふわふわとした毛並みの猫が、するりと部屋のどこかから現れた。白猫は、私の脚へすりすりとすり寄って、気持ちが良さそうに鳴いていた。
(相変わらず可愛いわ……! 屋敷に仕えるメイド達から教えてもらったのだけれど、ここらに棲みついている猫らしいわね。この子と接していたら、心が安らぐ……)
白猫の脇を両手で抱き上げると微笑みかける。
「コハク、あなたがいるから、私……寂しくない」
にゃおと、コハクは答える。
「うふふ、あなたに会うために、私はこの国に――この屋敷に来たのね、きっと」
ちょうどその時、部屋をノックする音が聴こえた。
部屋に入ってきたのは――。
「こいつが、俺以外の人間になつくなんて珍しいこともあるもんだな……」
――二度目の出会いを果たした、名目上の夫デュランダル将軍だった。
「あ……」
するりとコハクは私の腕を抜け、彼の肩へと移る。
「そう怯えなさんなって、兄貴やら宰相に、お前に会いにいけって言われて顔を見に来ただけだ――なんだ、泣いてたのか? こびてくる女ばかりで飽き飽きしてはいるが、お前みたいな頭が弱そうで、かよわいだけの女は苦手なんだよな、俺は……」
頭上からそう言って見下ろしてくる将軍が怖くて悲しくて、涙が自然と零れていく。
急に――大きな彼の手が、ぎこちない動作で私の顎を掴んでくる。
「まあ、でもお前が嫁の役割を果たしたいっていうなら――」
彼の唇が近づいてくる。
「いやです!」
「ああ?」
低い声を出す彼の顔を、手で覆いのける。
明らかに不機嫌になった彼が怖くて、身体がびくりと震えた。
「そうかよ。無事は確認した。じゃあ、俺は出て――」
「あ、あの……でも……待ってください!」
部屋から出て行こうとするデュランダル将軍の腕を咄嗟に掴んだ。
「痛っ――」
彼が小さなうめき声を上げる。
コハクが彼の肩からするりとどこかへ向かった。
「やっぱり」
彼の右手首を見ると、赤く腫れあがっていたのだった。
「離せ。このぐらい、しばらくしたら治る」
「貸してください」
そうして、治癒術を彼にかける。仄明るい光が灯り、しばらくすると彼の腕の腫れは引いていった。
眉をひそめながら、デュランダル将軍が声をかけてくる。
「どうして、分かった? 俺が手首をひねっていたこと」
「顎を掴む動作が、前に会った時よりもぎこちなかったので」
「――そうかよ。礼を言う」
そう言うと、今度こそ部屋からデュランダルは姿を消す。
「ただの……めそめそしただけの女じゃなさそうだな」
去り際に彼が何か言ったようだったが、私の耳には届かなかったのだった。
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