上 下
63 / 118
生意気な辺境伯は赤ずきんちゃんがお好き――追放されたら、狼じゃなくて悪魔伯に溺愛されました――

3

しおりを挟む



 身体で支払えと言われて、いったい何をさせられるのかと緊張していた私だが――。

「ほら、そこの文書、適当に年代別に並べといてくれる?」

 気だるげな様子で、ヴィオレが私に向かって話しかけてきた。

「は、はい……」

 なんと、ヴィオレ伯の研究の助手として、雇われることになったのだ。
 しかも、廃城に住み込みで。

(行く当てがないから助かった……)

 考え事をしていると――。

「きゃっ……!」

 近くにあった書類を手に持った私だったが、山積みになっていた書物に躓いて転んでしまった。もちろん紙があたりに散らばっていく。

「あいたたた……」

 転んだ時に鼻をどうやらこすったようだ。

「ただ働きも気が引けるだろうし、文字が読めるからって、魔術研究の手伝いでもさせようと思ったけど……」

 ためいきをつきながら、ヴィオレ伯は呟く。

「雇ったのは失敗だったかな? やれやれ」

 彼の物言いに、胸がずきんと痛んだ。
 狐のような顔をした継母から、「役立たずのごくつぶし」とよく言われていたのだ。
 そのことを思い出し、気づけば勝手に瞳が潤む。
 こちらに気づいたヴィオレ伯が、ぎょっと目を見開いた。

「わっ……なんで泣いてるんだよ?」

「え、えっと……」

 どんくさいのを気にしていた私は、いつのまにかぽろぽろと涙を流していた。

「ああ、俺が悪かったよ。言い方がきつかった。俺としては悪気はないんだけど、口調がきついって言われて、よく助手にしたやつが逃げるんだよね……」

 そう言うと、彼は「はあ」とため息をついた。

「ほら、ルージュ。機嫌を直してくれない? 飴玉やるから」

 そうして彼は手近にあった小瓶をとると、私の掌の上にころんと何粒かの飴玉を載せる。
 カラフルな可愛らしい包みに入った飴を見ると、少しだけ心が安らいだ。

「ルージュは……俺のきつい口調にもさ、めげずについてきてくれるし……重宝してるんだよ」

 ぼそりとヴィオレがそんなことを呟いた。

(聞き間違い……?)

「ああ、もう良いよ。仕事の続きをしてくれる?」

 そうして彼はまた机に向き合った。

(重宝している……)

 そんなことを言われたのは、生まれてはじめてだった。

(ヴィオレ伯は、言い方はきつい……というか生意気な印象があるけれど、すごく優しい男性だわ……どうして悪魔伯なんて言われているのか、分からないぐらい親切な人……)

 その日は、なんだか胸がぽかぽかしてきて、嬉しくて仕方がなかったのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...