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奪われたので、奪い返すことにしました
3※
しおりを挟む舞踏会当日、わたしはシリウスと共にセレーネ公爵家に来ていた。
どうやら次期当主の婚約発表もあるらしく、会場は大層にぎわっている。
「まさか、シリウスがセレーネ公爵家に所縁のある人だったなんて……」
セレーネ家と言えば、オルビス・クラシオン王国の二大筆頭貴族だ。白金色の髪に蒼い瞳を特徴に持っていて、とても見目麗しい家系の人々である。歴代の宰相も、このセレーネ家から排出されるのだ。
(でもまさか……そんな二大貴族の一員が、髪結いをしているなんて思わないじゃない……)
すごい人物が友人だったのだと、なんだかすごく落ち着かない。
舞踏会の会場には、たくさんの貴族が来ていて、わたしはすごく緊張してしまった。
しかも、やたらとじろじろと視線を向けられている気がする。
ドキドキするわたしに、シリウスが耳元で囁いてきた。
「スピカ、大丈夫だよ、私が一緒なんだから」
彼女にそう言われると、不思議と心が落ち着いてくる。
(本当に……シリウスが男性だったら良かったのに……)
そんなことを思ってしまう。
(ありえない、夢物語だわ……)
そうして気を取り直して、二人できゃっきゃっと話していると、すっと人影が伸びてきた。
「スピカ」
声を掛けてきたのは、元婚約者のデネブだった。
「デネブ……」
「こちらに来てくれないか?」
「あ、スピカ……!」
そうしてシリウスの元から奪われるようにして、デネブに裏庭へと連れて行かれてしまう。
夜闇の中、裏庭の東屋に連れてこられたわたしは、突然デネブに抱きしめられる。
なぜだか、シリウスに抱きしめられた時のことを思い出してしまった。
「スピカ、俺が悪かったんだ。俺のために綺麗になってくれたんだろう? あの派手な身持ちの悪い女とは別れるよ。だからよりを戻そう」
よりを戻すも何も、婚約していただけで、デネブとは男女の関係なんかではなかった。
そんな彼に抱きしめられて、昔の自分なら嬉しかったのかもしれないが、なぜだか嫌悪感が沸く。
「デネブ、そんなつもりは、わたしにはないわ……離してちょうだい……!」
だが、彼は制止も聞かず、わたしに口づけようとしてくる。
(いやっ……誰か……! シリウス……!)
その時――。
「女性を表面的な美しさからしか見られない男性は、私は嫌いだな」
大好きな友人の声。
デネブの身体から引き離されて――。
「大丈夫? 私の大事なスピカ」
――気づけば、わたしはシリウスの腕の中にいた。
デネブが声を荒げる。
「スピカと一緒にいたセレーネ家のご令嬢、僕はスピカの婚約者だ。邪魔をしないでもらおうか?」
そんな彼に対して、シリウスは悠然と微笑む。
「元、でしょう? ねえ、私の大切なスピカ」
すると、突然、わたしの唇に柔らかいものが触れる。
「んぅっ……あっ…ふあっ……」
何が起こっているのか理解するのに時間がかかった。
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