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奪われたので、奪い返すことにしました

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 舞踏会当日、わたしはシリウスと共にセレーネ公爵家に来ていた。
 どうやら次期当主の婚約発表もあるらしく、会場は大層にぎわっている。

「まさか、シリウスがセレーネ公爵家に所縁のある人だったなんて……」

 セレーネ家と言えば、オルビス・クラシオン王国の二大筆頭貴族だ。白金色の髪に蒼い瞳を特徴に持っていて、とても見目麗しい家系の人々である。歴代の宰相も、このセレーネ家から排出されるのだ。

(でもまさか……そんな二大貴族の一員が、髪結いをしているなんて思わないじゃない……)

 すごい人物が友人だったのだと、なんだかすごく落ち着かない。

 舞踏会の会場には、たくさんの貴族が来ていて、わたしはすごく緊張してしまった。
 しかも、やたらとじろじろと視線を向けられている気がする。
 ドキドキするわたしに、シリウスが耳元で囁いてきた。

「スピカ、大丈夫だよ、私が一緒なんだから」

 彼女にそう言われると、不思議と心が落ち着いてくる。

(本当に……シリウスが男性だったら良かったのに……)

 そんなことを思ってしまう。

(ありえない、夢物語だわ……)

 そうして気を取り直して、二人できゃっきゃっと話していると、すっと人影が伸びてきた。

「スピカ」

 声を掛けてきたのは、元婚約者のデネブだった。

「デネブ……」

「こちらに来てくれないか?」

「あ、スピカ……!」

 そうしてシリウスの元から奪われるようにして、デネブに裏庭へと連れて行かれてしまう。

 夜闇の中、裏庭の東屋に連れてこられたわたしは、突然デネブに抱きしめられる。
 
 なぜだか、シリウスに抱きしめられた時のことを思い出してしまった。

「スピカ、俺が悪かったんだ。俺のために綺麗になってくれたんだろう? あの派手な身持ちの悪い女とは別れるよ。だからよりを戻そう」

 よりを戻すも何も、婚約していただけで、デネブとは男女の関係なんかではなかった。
 そんな彼に抱きしめられて、昔の自分なら嬉しかったのかもしれないが、なぜだか嫌悪感が沸く。

「デネブ、そんなつもりは、わたしにはないわ……離してちょうだい……!」

 だが、彼は制止も聞かず、わたしに口づけようとしてくる。

(いやっ……誰か……! シリウス……!)

 その時――。

「女性を表面的な美しさからしか見られない男性は、私は嫌いだな」

 大好きな友人の声。

 デネブの身体から引き離されて――。

「大丈夫? 私の大事なスピカ」

 ――気づけば、わたしはシリウスの腕の中にいた。

 デネブが声を荒げる。

「スピカと一緒にいたセレーネ家のご令嬢、僕はスピカの婚約者だ。邪魔をしないでもらおうか?」

 そんな彼に対して、シリウスは悠然と微笑む。

「元、でしょう? ねえ、私の大切なスピカ」

 すると、突然、わたしの唇に柔らかいものが触れる。

「んぅっ……あっ…ふあっ……」

 何が起こっているのか理解するのに時間がかかった。

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