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ぜんぶ、はじめてだったのに
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しおりを挟む王女である私ティエラ・オルビス・クラシオンが、生まれた時からずっと一緒に過ごしている青年がいる。
私の護衛騎士でもある彼・ソル・ソラーレが、戦争に行くことになった。
燃えるような紅い髪に、新緑を思わせる――だけど、やんちゃな碧の瞳。長身で細身だけど、しっかりとした体躯。王国最強の騎士の称号を持つソル。
憎まれ口を叩いてきたり、王女である私に対してふてぶてしい態度をとってきたり、いつも意地悪を言ってきたりする彼と、私はいつも喧嘩ばかりだったけれど――。
(もしかして、戦争で死んじゃうかもしれない)
ソルを失ってしまうんじゃないかって……。
初めて彼と離れて過ごすことに、すごく不安を覚えた。
「離れていても、心はいつもあんたと共にある。俺は、絶対にあんたのところに帰ってくる。約束だ」
私は、この国の王女として、護衛騎士である彼を戦地に見送った。
もちろん、この国では一番強い力を持っていた――王国最強のあの人は、自分の役目を果たして帰ってきてくれた。
離れていたことで、私が本当はソルのことを憎からず想っていたことにも気づかされる。
だけど、彼が手にかけた人数は、他の兵士や騎士の何十、何百倍以上――。
優しい彼の心は罪悪感に蝕まれてしまった。
心が安定しないソルを見ていて、今までの彼とは別の人になってしまったみたいで、すごく苦しくなった。
彼の様子を見ていられなかった私は、告げるつもりのなかった気持ちを、思わず彼に叫んでしまった。
「貴方の事が好きなの……!」
「俺はお前からの同情なんて望んでない!!! もう来るな!!!」
一度、拒絶されたりもしたのだけど――。
私はどうしても、ソルに好かれなくて良いから、昔の優しい彼に戻ってほしくて、真夜中に彼の部屋に忍び込んだ。
「同情なんかじゃない。私は、貴方のことが好きなの。貴方に元気になってほしくて……」
訴えている途中、私は彼に押し倒されてしまった。
亜麻色の長い髪が、白いベッドの上に拡がってしまう。
「そんなに言うんだったら、俺にあんたをくれよ」
彼の悲痛な声で、彼も私のことを想ってくれているのが分かった。
お互い、国の命で別々に跡継ぎを得ないといけない。周囲を説得して自分達が結ばれるのは、苦難の道だってことも知ってる。
だけど私は、彼の想いに答えたくて――。
「貴方がそれで、生きてくれるのなら。貴方を癒すことが出来るのなら……だったら……貴方の思うようにして」
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