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嘆きの令嬢は、銀嶺の騎士に甘く愛される

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 夜、フェルゼンの寝室の扉を叩く。
 金色の短い髪に、蒼い瞳をした彼はベッドに腰かけていた。

「フェルゼンさん、少しお話を……」

「若い女性が、男の部屋に一人で訪ねてくるものじゃあないな」

「どうしても聞きたいことがあって……」

 彼は椅子に座るよう勧めてきた。

「なんだ?」

「あのお墓は誰のものなのですか?」

「あれは――」

 少しだけ間がある。

「死んだ元恋人の墓だよ」

(ああやっぱり、だからあんなに手を合わせながら、辛そうな顔をしていたのね……)

 そして、わたしの胸もぎゅっと苦しくなった。

「十年前に、エスト・グランテと戦争があったのを知っているか?」

「ええ、まだわたしが幼い頃だったはずですが……戦争で亡くしたのですか?」

「厳密には違う」

「厳密には?」

「――自殺したんだ」

 わたしは驚いて目を見開いた。

「彼女は、私が指揮をしていた部隊で一緒に働いていた女騎士だった。だが、私の判断ミスで、彼女は敵に捕らわれてしまった。捕虜協定があるから、本来、女性としての尊厳は守られるはずなんだ。だが、彼女は敵兵に乱暴狼藉を働かれた」

 彼は続ける。

「生きて帰ってきたが、彼女は私に操を立てられなかったと気を病んで、そうこうしてたら自分から死んでしまった。私は彼女が純潔だとかどうだとか気にしてなかった……生きてさえいてくれれば、それで良かったのに……」

 フェルゼンさんは泣いてはいなかったけれど、その深い蒼い瞳は、まるで泣いているように、わたしには見えた。

 そうして――。

 気づいたら、わたしは彼の身体を抱きしめていた。

「その……恋人の代わりと言うにはおこがましいかもしれませんが、わたしで良ければ……」

「ガーネット……」

「もう純潔は失われていて、わたしの身体には、あなたに身を捧げるぐらいしか価値などありません」

 だけど、彼は――。

「……ダメだ」

 そう言われたわたしは、ぱっと身体を離した。

「ごめんなさい、フェルゼンさん……わたしのような汚れた身体では、あなたが嫌ですよね……」

 そうして身を翻そうとしたところ、彼に腕を掴まれてしまう。

「待て、君では彼女の代わりにはならない」

 わたしの胸がずきんと跳ねた。

「はい、わかっ――」
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