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嘆きの令嬢は、銀嶺の騎士に甘く愛される

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 ゆっくりと目を見開く。

(ここは天国……?)

 とても暖かい空気の中、白いベッドの上で、わたしは身体を起こした。
 周囲を見渡すと、丸太で出来た小さな部屋のようだった。

(どうして? 海に飛び込んだはずなのに、わたし、生きてるの?)

 いつの間にか、清潔な寝衣に着がえさせられている。

「やっと、目を覚ましたのか?」

 突然、部屋の中に声が響いた。

 声の方を振り向くと――。

 ――金色の短い髪に、左のこめかみから頬にかけて大きな傷のある、精悍な顔立ちをした男性が、部屋の扉の前に立っていたのだ。

 瞳の色は深い蒼をしていて、どことなく、恋人だと思い込んでいたバーンの容姿を思い起こさせた。

「どうして、わたし――」

「どういう事情があるかは知らないが、私は、自分で死のうとする人間は好きじゃないんだよ」

 わたしは身体がわなわなと震えた。

 また、生きて苦しまないといけないのだ。

 親友を裏切ってしまった後悔に――。

 気づけば泣き叫んでいた。

「でも、じゃあ、どうしたら良いのよ! どれだけ、自分の愚かさを呪っても、過去には戻れないわ! わたしはどうしようもない馬鹿なことをしてしまったのよ! 愛する人や純潔を失っただけじゃない! 大事にしていた親友まで――! 知らなかったではすまされない!」

 彼は黙って聞いていた。

「あなたがわたしを助けたの? どうして助けたのよ! どうして死なせてくれなかったのよ! わたしの命ですもの、わたしがどうしようと勝手――」

「死んで良いと思ってるのは、お前だけだ――!!」

 彼が突然声を荒げたので、わたしはそこで止まった。

「すまない。大きな声を出して……」

 そう言うと、彼は踵を返す。

「君が落ち着くまで、この家で暮らすと良い。落ち着いてから、今後のことは考えろ」

 わたしに背を向けた彼は、冷静な声でそう言った。

「生きていたら、どうとでもなる。親友とやらとは、ちゃんと話をしたら良い」

(生きていたら……リリー……)

「あなた、名前は?」

「フェルゼン」

「フェルゼン……」

 そうして、その日から、北に面する小さな村の山小屋で、わたしと彼の奇妙な生活が始まったのだ。
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