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嘆きの令嬢は、銀嶺の騎士に甘く愛される
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しおりを挟む「じゃあ、帰るわね、リリー」
お茶も終わり、庭の馬車に乗って屋敷に帰ろうとしていたところ――。
ガラガラと音を立て、一台の豪奢な別の馬車が、わたしとリリーの前に止まった。
扉が開き、馬車の中から一人の青年が降り立つ。
彼を見て、親友のリリーが嬉しそうに叫んだ。
「イグニス様!」
わたしは、皇太子がわざわざ公爵家に訪れたことに驚いた。
地に足をつけたイグニスは、リリーの長い黒髪を手に取ると、そっと口づける。
「愛しいリリー、俺がいない間も元気にしていたか?」
(この声、この仕草……)
私の心臓が胸騒ぎを覚えた。
親友のそばに立つ、鳶色の髪の青年。
そうして、初めて彼の顔を見た私は愕然としたのだ。
なぜならば――。
リリーの黒髪に口づけていたのは、わたしの恋人であるバーンだったのだから――。
***
大陸の北に面するロクス帝国の最北にある海。そこに面する崖の先端で、のたうちまわる波をぼんやりと眺めていた。
凍える風が唸り声をあげながら、潮の香りを舞い上げてくる。
私の頬を引き裂くように、風は吹きすさぶ。時折、波が崖に打ち寄せては返る音が耳に届いた。私の赤茶けた髪が風にたなびく。
(もう、死ぬしかない……)
目を瞑ると、愛するバーンの姿が浮かんだ。
鳶色の髪に、柔和な水色の瞳をした精悍な顔立ちの青年。
(彼を信じていた……わたしだけを愛していると……)
だけど、違ったのだ。
わたしは恋人だと思っていた彼に騙されていた。
(噂に聞くと、なかなか男性に心を開かないわたしを、落とせるかどうか、貴族たちの間で賭け事をされていたのだという……)
純潔を失ったことを周囲に知られているのだと思うと、人々からの視線が怖かった。
女性の処女性を貴ぶ教会の力が強いロクス帝国で、おそらく嫁ぎ先を見つけることは至難の業だろう。
浮かれていたとはいえ、自身のうかつさを呪っても呪いきれない。
修道女になりたいと、父に懇願したが許してはくれなかった。
しかも、それだけではない。
(彼の婚約者はわたしの親友リリー。彼女の耳に、わたしと彼の出来事が届いたらと思うと、辛くて胸が張り裂けそう……彼女はどう思うかしら……)
涙がこぼれては、冷たい風がさらっていく。
愛する彼が本当はこの世に存在しなかったのだということよりも、親友であるリリーの信頼を失ってしまったのだと思うと胸が苦しくて苦しくて、仕方がなかった。
誰を責めて良いのか分からない。責めるとしたら、自分の愚かさだけだ。
(もう、未来がみえない……)
死ぬのは怖かったが、それ以上に楽になりたかった。
わたしは雪の上で靴を脱いだ。かじかむ裸足はそのままに、神に一度だけお祈りをして、そっと海に身体を投げ出す。
そうしてそのまま、わたしは意識を手放したのだった。
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