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凍てつく百合の令嬢は、婚約者の弟に狂おしく愛される

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 大陸の北を征するメディウス・ロクス帝国が、その名を冠する少しだけ前の話。



※※※



 ずっと公爵令嬢として何不自由なく生きてきた。

 子どもの頃から大好きだった、皇帝である年上の彼の元へ嫁ぎ、皇妃になることも決まっていた。

 とても、幸せな結婚式になるはずだったのに……。

 ――私は今、愛していた彼の弟の腕の中にいる。



※※※



(私が愛したイグニス様は、もうこの世にはいない)

 私の夫になるはずだったイグニス様は殺されてしまった。

 しかも、私と彼の結婚式の最中に……。

 あの日、純白のドレスに身を包んだ私の胸には、イグニス様との幸せな未来への希望で満ちていた。

 どんなにダメな私でも、添い遂げると誓ってくれたイグニス様。

 けれども、誓いのキスを交わした後、私の目の前で、愛するイグニス様は倒れた。
 彼の鳶色の髪だけでなく、私の黒髪も白いドレスも、見るも無残に血に濡れてしまっていたことを、今でも覚えている。

 思い出すだけで、胸を焦燥が襲い、息がしづらくなるようだ。

 皇帝イグニスの皇妃になるべく、誓いのキスまですませていた私は、捕えられ、城の一角にある部屋に閉じ込められた。


 愛するイグニス様を亡くし、失意に飲まれた私は、もういっそ自分で命を絶とうと思った。部屋にある白いシーツを引き裂いてベッドの柵に吊るし、縊首《いしゅ》しようとした。
 だけど、部屋を訪れた人間に見つかってしまい、自死は失敗に終わる。

(私は死んで、愛するイグニス様の元へ向かうことも許されない)

 絶望していた自分に、声をかけてくる人物がいた。

 これから義弟になるはずだった幼馴染みの青年。


「イグニス兄さんを殺した僕に怒ると良い。それで貴女が生きてくれるのなら、僕は……」


 ――兄殺しの弟。

 そうして、私の幼い頃からよく知る弟のような彼が、私にそう告げてきたのだった。


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