あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――

おうぎまちこ(あきたこまち)

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「ひっ……!」


 夜の墓地だ。

 振り向くと、長身の男性のシルエットが見える。

 暗がりで誰かが分からない。

 夜の墓地には墓荒らしが出たりすることがある。

 死者よりも生者の方が時に恐ろしいのだ。

 自分の迂闊さを呪った。

(まずい、このままじゃ……!)

 男はもう一方の手も私に伸ばしてくるではないか――。


「こんなところで……」


 純潔は失った身だが、貞操の危機を感じた。

(こんなところで、シャーロック様以外の男性に襲われてる場合じゃないわ……!)

 近くに人がいるかもしれない。

 とにかく息を吸って、大声で叫んだ。


「私は夫に操を立ててるんです!! 離してください!」


 自分から相手の懐に勢いよく飛び込む。

 想像外の行動を私がとったのか、相手が怯んだのが分かった。

 そのまま相手の腕にガブリと噛みつこうとしたが――。


「きゃうっ……!」


 軽くいなされてしまう。

 両肩を掴まれ、絶体絶命の危機を感じたが――。


「アメリア、俺だよ」


 暗がりに慣れてきた目を、ごしごしと擦る。


 噛みつくつもりでいた相手は――。


「シャーロック様……!」


 捜し人、その人だったのだ。


「良かった、シャーロック様……探したんですから……!」


 思わず涙ぐんでしまう。

 安堵したのも束の間――。


「全然、良くない!」


 珍しく彼が私を怒鳴りつけて来た。

「……っ!?」

 こんなシャーロック様ははじめてだったので、たじろいでしまう。

「アメリア……こんな夜に女性が一人で出歩くべきじゃない。見つけたのが俺だったから良かったけど、暴漢だったらどうするんだ…… あと、相手に飛び掛かったらいけない……逆上した相手が攻撃してくるかもしれないんだから……」

 静かに怒りを顕す彼の様子を見て、しゅんとなってしまった。

「自分でも迂闊だったと思いました……ごめんなさい……」

 すると――。

「きゃっ……!」

 気づいたら私は、彼の腕の中に閉じ込められてしまっていた。

「怒鳴って悪かった……俺が出ていったのが全部悪いのに……君は俺を探してくれていたんだって分かってる……だけど、すごく心配で……」

 ぎゅうっと抱きしめられ、彼の逞しい胸板に顔が押しつぶされそうなぐらいだ。

 なんとか彼の顔を見上げる。

(あ……額に汗……)

 きっと彼の方も私のことを必死に探してくれていたのだろう。
 本当に心配してくれていたのが分かる。

「ちょうど教会の出入り口に、朝、君がつけていたリボンが落ちていたから……すぐに見つけられたけど……」

 そう言われて、髪をポニーテールにしていたリボンが外れてしまっていることに気づいた。
 
 ふっと、彼の腕の力が緩んだタイミングで抜け出す。

「アメリア、君に謝らないといけないことがある……帰りながら聞いてくれるか?」

 私はこくんと頷いた。


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