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 今こそ彼とちゃんと向き合って話す時だ。

 だけど、起きたばかりの身体はなかなか言うことを聞かなかった。

 彼がぽつりと呟く。


「アメリア、君は写真を見たんだろう?」


 ――シャーロック様とマーガレット嬢が映る写真のことだろう。

「あ……の……」


 彼は続けた。


「君を一途に想う青年のことなんか知らずに――君を愛してないくせに君と結婚したんだ――」


 ――愛していない。

 まるでナイフのように、言葉が私の心を抉ってくる。


「俺が愛しているのはマーガレットで……」

 
 ズキズキと胸が痛んだ。

 だけど、自分の心以上に、彼の声が震えているのが気になってしまう。


「財産を継ぐための子どもを儲けてほしかっただけなんだ――だから誰でも良くって……」


 振り返って、彼へと視線を向ける。


(あ……)


「なのに……なんで、君が離れることを想像すると、こんなに苦しいんだろう」


 彼は翡翠の瞳から静かに涙を零していた。


「ああ、ダメだ――誰かに、こんな気持ちになったことがなくて――自分がどうしたいのか――どうしたら良いのかが分からない……」

 彼は呻くように呟く。


 ――早くこの人に、自分の気持ちを伝えないと――。

 カラカラに渇く喉で、なんとか言葉を口にした。


「その……私はシャーロック様のことが――」

 だが――。


「――聞きたくない……」

 すぐに遮られてしまった。

「あ、あの……」

「君から答えを聞くのが怖いんだ……」


 背後に覆いかぶさってきた彼が、なんだかひどく小さな子どものように見えた。


「どうやったら、君は俺の方だけを見てくれるんだろう――そんなことばかり、考えて……俺は――マーガレットを忘れてはいけないのに――」

 そう言うと、彼はそっと私の身体から離れた。


(――私はもうシャーロック様の方を見ていて――)


 椅子にかけてあったスーツのジャケットを彼が手に取る。


「一方的にすまなかった……他の誰かが心の中にいるような半端な男のくせに、君におこなって良い仕打ちではなかった……頭を冷やしてくる――」


 そのまま、彼は部屋を出て行ってしまった。


「私は――」

 
 シンとした室内に一人だけ取り残される。

 彼が戻ってこない扉を呆然と見つめ続けた。

「シャーロック様……」

 ――彼も自分との関係に思い悩んでいたのだ。

 元恋人への罪悪感と、現在の妻との関係の両方に苛まれて苦しんでいたのだろうか。


「私は……」


 亡くなった女性のことを忘れないでいる男性のことを、半端な男性だなんて思わない。

 それに――。

(ちゃんとシャーロック様に気持ちを伝えると決めたもの)


「行かなきゃ――シャーロック様を追いかけなきゃ……!」


 ――ベッドから飛び降りた私は、閉ざされた部屋から勢いよく飛び出たのだった。


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