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9-1 シャーロックside
しおりを挟む墓地から帰ってきたシャーロックは寝室に戻った。
(アメリアの調子は戻っただろうか?)
少しだけ落ち着かない気持ちのまま、扉を開く。
ベッドの上を見たが――。
「アメリア?」
――眠っているはずの妻の姿はなかった。
シーツを触れると、もうすっかり冷え切ってしまっている。
「アメリア、どこに行ったんだ?」
慌てて屋敷の中を探し回った。
「アメリア、どこにいる――!?」
焦燥が募る。
戦地から帰ってきた日――どれだけ探してもマーガレットが見つからなかった日のことを思い出した。
(アメリアも具合が悪いのを無理したんじゃ――)
早足になりながら、屋敷内の数多ある部屋の扉を開けてまわる。
「アメリア――」
ちょうど、その時――。
たまたま出くわした使用人に呼び止められた。
「報告が遅れて申し訳ございません、旦那様。アメリア様なら、ご友人のジェシカ・ヴィンセント様のところに会いにいくとおっしゃっていましたよ」
その言葉を聞いて、ほっと胸を撫でおろした。
「そうか……」
今日は日の曜日で、公務もない。
「ちょっと外に散歩にでも誘おうと思っていたけれど……」
夫と過ごすよりも、友人と過ごしたいと思われたようだ。
(アメリアは俺よりも十は年下だ。まだ若いし元気な子だし、友人と遊んだりした方が楽しいのかもしれない。友人と話して元の調子に戻ってくれれば、それが一番だろう)
結婚しても、マーガレットの元を毎朝訪れるようにしている。
彼女が何かすることに関しても自由にしてやりたかった。
もしかしたら、死者とは言え、妻以外の女性の元へ向かう、後ろめたさのようなものもあるのかもしれない。
それに、自由を奪って、ただでさえ関心を抱かれていない妻に、これ以上嫌われたくはなかった。
せっかくの休日で、妻も不在だし、何か本でも読もうかと思って書斎に向かう。
ふと、机の上に、先日妻に勧めた小説が乗っていることに気づいた。
「アメリアがここに来たのか?」
棚から取るだけ取って、持って帰るのを忘れてしまったのだろうか。
視線を移すと、本の隣に一枚の写真があることに気づいた。
「これは……」
声が震える。
胸の辺りがズンと重くなっていった。
のろのろと、セピア色のそれに手を伸ばす。
「全部、侯爵家に返したはずじゃ……」
――シャーロックとマーガレットが仲睦まじく映る写真。
婚約した頃だろうか。
年若い自分の眩しい笑顔が、今は胸を真っ黒に塗りつぶしていく。
手先が冷たくなっていくのを感じた。
「昨日、書斎を訪れて……まさか、この写真をアメリアは見た……のか?」
今まで元気に過ごしていたアメリアの様子が昨日からおかしかった。
もし、写真を見たのだとしたら、自分の顔とよく似た女性と映る夫の姿を見て彼女はどう思ったのだろう。
「いや、まだ見たと決まったわけでは……」
落ち着かない気持ちのまま、しばらく呆然と過ごした。
「旦那様、奥様がお帰りですよ」
使用人に声をかけられ、はっとしたのだった。
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