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7-1 シャーロックside

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 毎朝、屋敷の近所にある墓地へと花を手向けに来るのが、シャーロックの日課になっている。

 今日はというと――。

 調子が悪いと話していた妻アメリアが目覚める前に、日課をすませようと思って、早朝、彼はベッドから抜け出してきていた。

 花を一輪手向けた後、墓石に向かって声をかける。

「今日は来るのが遅くて悪かった……妻の調子があまり良くなかったものだから――ああ、妻が出来たとは言ったが、決して君のことを忘れたわけじゃないんだ――俺は絶対に君を忘れない――君のことをずっと想っている。これから先もずっとだ……マーガレット」

 返事のない場所に語り掛けるようになって、もう十年近い歳月が経った。

 幼馴染の侯爵令嬢マーガレット。

 ブラウンの髪にブラウンの瞳をした愛らしい容姿をした彼女は、生まれつき病弱だった。
 長くは生きられないと言われていて、どこか儚げな雰囲気があった。

 シャーロックを産んですぐに母が亡くなり、女性からの愛情に飢えていたのもあったのかもしれない。
 三歳年上で、身体の調子が良い時には世話を焼いてくれる、落ち着いた雰囲気のマーガレット。
 彼女に母を重ねていたところは否定できないだろう。
 小さい頃からずっと一緒で、彼女のいない人生は想像しづらかった。


 ――マーガレットが成人を迎えて数年が経ったある日、シャーロックが十七の頃。
 
「持病が悪化しているから、もう一生結婚は無理でしょうね……子どもを産むのは難しいと言われているわ……」

 そう言いながら、窓辺で外をぼんやりと眺める彼女のことを見ていると、胸が締め付けられるような想いがしたのを覚えている。
 思わず、大人に近づきつつあったシャーロックは彼女に向かって叫んでいた。

「だったら、俺が君と結婚するよ、マーガレット」

「……同情なら必要ないわ、シャーロック……こんな身体じゃ、妻の役目だって果たすことは出来ない」

 触れれば壊れそうな笑顔を見ると、胸が軋んだ。
 肺の病が進行していて、成人まで生きているのが不思議なぐらいらしい。

「子を産むばかりが妻の役目じゃない。同情じゃないんだ、俺と結婚してほしい」

 公爵家の子ではあったが、三男だったこともあり、婚約自体は滞りなくすんだ。

 ――そうして、シャーロックが成人を迎え、しばらくしたら結婚だという時、戦争が起きた。

 軍に所属していた年若いシャーロックも参戦することになった。

「行ってくるよ、マーガレット。君を妻に迎えることを楽しみにしている。ウェディングドレスと空色のドレス、似合うだろうな……」

「そうだと嬉しいわ……行ってらっしゃい、シャーロック」

 その時、初めて彼女の方からキスをしてきたのが忘れられない。

 戦争の期間は、そこまで長くはなく数月で終わった。

 戦果を上げた功績を称えられ、騎士ナイトの称号を与えられた。

 だけど、戦地から帰った時には、すでに彼女は――。
 

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