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しおりを挟む初夜は滞りなくすんだのだけれど――。
(あの日以来、シャーロック様が何もしてこないのだけど……?)
一応寝室は同じなのだが、取り立てて何もされない。
(新婚は毎日、夜の営みに励むものだと思っていたわ……)
だが、どうやら違ったようだ。
(跡取りを急いでいないから? それとも初夜に私、何かやらかしたのかしら?)
彼に嫌われたのかもしれないと思うと、そわそわと落ち着かなかった。
とはいえ、ドレスやら装飾品の類、名産や花……そういった贈り物に関しては、毎日ある。
(それに、休日になると、やたらと私の話を聞いてくるようになったような……)
子どもの頃どんな風に過ごしたのだとか、趣味は何かだったのか、どんな友人がいたのかなど――。
(あと、気になるのはもう一つだけあって……)
時折、行先も告げずに、ふらりと姿を消して、しばらくしてから帰ってくることがあった。
(どこに行ってるんだろう?)
あまりに手をつけられないので、女性の元へと向かっているのか気になったのだが、それにしては短い時間で帰ってくる。
――シャーロック様が夜の営みを避ける理由に関しては、考えてみても答えは出ない。
新婚旅行は来月カウントリーハウスへと向かうことになっているので、それまでは屋敷でのんびり過ごすことになるだろう。
せっかくだからと、仕立て直しの途中だった空色のドレスの縫製にとりかかることにした。
とろりと触れる生地に、心が穏やかになっていく。
ちょうど、その時、寝室の中にシャーロック様が現れた。
「ああ、アメリア――ドレスの縫製をしていたのかい?」
「はい、そうなんです」
にこにこと答えたが、シャーロック様の方は至極真面目な顔をしている。
(どうしたのかしら――?)
彼は重たい口を開いた。
「その……アメリアは、ドレスを着る予定だった女性が誰なのかは気にならないの?」
「え? ええと……その」
気にならないと言えば嘘だ。
「気にはなるけれど、誰にでも教えたくない過去があるのかなって……」
その時、突然、シャーロック様に抱きしめられる。
(え――?)
ひどく苦しそうに、彼は私に囁いてきた。
「……俺はなんで……君に関心を持たれてないのが、こんなに苦しいんだろう――君の気を惹きたくてしょうがないのに、君は俺の方を見てはくれない」
「え?」
ふっと彼は笑ったかと思うと、すぐに離れる。
「いや、なんでもないよ、アメリア――ああ、そうだ、君が読みたいって言ってた本、書斎にあったから、好きな時にどうぞ」
そう言って、シャーロック様は去って行った。
心臓がばくばくと落ち着かない。
(シャーロック様……)
彼が何を考えているのか分からなくて、しばらくの間落ち着かなかったのだった。
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