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しおりを挟む住み込みで花嫁修業をさせてもらっている立場の私だけれど、周囲の使用人たちも皆優しく接してくれていた。
時々、幽霊でも見たかのような顔をして、私を見てくるメイドがいたのはとても気にはなりはしたけれど――。
浮ついたイメージのあるシャーロック様はとても勤勉な読書家で、ご自身の書斎を持っていた。
「たくさん本があるから、好きに読んで良いよ、アメリア」
そんな風に言われ、書斎で本を借りたりしていた。
ある時、部屋の片隅に白い赤ん坊位の大きさの箱が置いてあることに気づく。
「何かしら……?」
ふと気になって、箱を空けると、そこには綺麗な空色のドレスが入っていた。
チュール素材で出来たそれは、まるで妖精のように可憐なデザインだ。
「うわぁ可愛い……」
お針子だった私は、そのドレスに心を奪われてしまった。
「どうしてこんな可愛らしいドレスが置いてあるのかしら……? しかも製作途中だわ……」
確かシャーロック様には妹君がいらっしゃったはずだ。
彼女のものが置いてあるのだろうか。
そこで、はっとなる。
(ま、まさか以前の恋人への贈り物……!?)
そんなことを考えていると、扉がぎいっと開く。
「アメリア、好みの本は見つかったかい……?」
振り返ると、そこには婚約者の姿があった。
「あ、シャーロックさ――きゃっ……!」
彼は大股でこちらに近付いてきたかと思うと、ばっと勢いよく私の手からドレスを奪い取った。
「あ……」
明かりを灯していなかったので、部屋の中は薄暗くて、彼の表情はうかがえない。
だが、いつもは穏やかなシャーロック様はそこにはいなかった。
――触ってはいけないものに触れた。
そんな感覚が身体を襲ってきて、その場から動けないでいた。
ひりついた喉からなんとか言葉を絞り出す。
「ご、ごめんな――」
怯えている様子が伝わったのか、シャーロック様ははっとなる。
「すまない、アメリア……君に落ち度はないのに」
そう言うと、ドレスを持ったまま、彼は俯いた。
「いいえ、私が勝手に本以外のものを触ってしまったから」
勢いよく頭を下げる。
「いや、良いんだ、アメリア――こんなものを後生大事にとっておいた俺が悪い」
シャーロック様の顔色は悪い。
――それはいったい誰のものですか?
そんな質問は絶対に出来ない雰囲気だった。
「君との結婚も間近だ。こんなものは処分しよう」
彼の顔は見えない。
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