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 正直に答えても良いものか迷ってしまったが、素直にうんと頷く。

(浮名を流す、そんな人……噂話に興味がなくて、最近までは知らなかったけれど……)

 そんな私を見て、彼は笑みを深めた。

「君はやはり、自分を偽らない、素直で健康的な女性だ。この三十年近く、大輪の花たちに囲まれる生活も良かったけれど、君のように素朴な花を一輪だけ愛でるのも悪くはないと思ったんだよ」

 シャーロック様のお言葉は、少しだけ遊び人の道楽に聞こえなくもなかった。


「なんて……まあ、正直なところ、公爵である父に急かされたのが本音だ」

 
 やはり――と、胸がずきんと痛んだ。


「急かされたとはいえ、俺にも条件があった。まず第一に健康であること、第二に子どもの養育にちゃんと力を入れてくれそうな女性であること――これさえ満たしていたら誰でも良かったんだ」


(誰でも……)

 胸の痛みは落ち着かない。


「勤勉なら尚のこと良い。アメリア、君が元は男爵令嬢で、銀行家になった父親が破産に追い込まれる前には、教会で慈善事業にも力を入れていたのを知っている」


 そう言うと、彼は私の手をとり、ちゅっと口づけてきた。


「まあ、ひとまずは契約結婚だ。君の家には金、俺は跡継ぎ。結婚して、段々と俺のことを好きになってもらっても、そうでなくても構わない――俺も君を好きになれるかもしれない。そういう期待があった方が、愛のない結婚よりも夢があるとは思わないかい?」


 彼の滑らかな口説き文句に、ますます私の頬は蒸気してしまう。

「君を大事にしたいとは思っている。これ以上は、一緒にいたら何をしでかすか分からない。一旦失礼するよ」

 そう言うと、彼は部屋を立ち去ったのだった。

(穏やかな人柄だけど、どこか享楽的な方だわ……シャーロック様……)

 女性の扱いにはなれているのだろう。

 彼が近くにいると、心臓が鳴りっぱなしで落ち着かない。

(愛のない結婚よりも夢がある……か……)
 

 やはり、彼は私自身を愛して求婚してくれたわけではなかった。

 だけど、優しいシャーロック様は、私に愛の言葉、ドレスや装飾品などを惜しみなく送ってくれる。

 屋敷の人たちも、貴賤なく接してくれて優しかった。 

(もしかしたら、彼が私を好きになって、本当の夫婦にだってなれるかもしれない……)

 期待は捨てないでいたいと思った。


 そうして気になることが一つ。


(シャーロック様が私を見て、時々苦しそうな表情を浮かべるのはどうして――?)


 少しだけ懸念は残っていたが、女性としては結婚への憧れがある。

 愛されてはいないが、期待は捨てずに結婚に望もうと思っていたのだ。

 そう――あの日、彼の書斎で――私によく似た女性と仲睦まじく映る、シャーロック様の写真を見つけるまでは――。
  

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