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最終章 満天の星の下、消えゆく君と恋をする
最終話ー12
しおりを挟むその時、美織が勢いよく蒼汰の首にしがみついてきた。
「は、離れろ、胸が当たってる」
だがしかし、聴く耳持たずの美織は蒼汰から離れまいとぎゅうぎゅうくっついてくる。
「私はずっと一緒に過ごすのが前提だと思ってたのに、君は違ったんだって思って」
耳元で聴こえる美織の声は少しだけ寂しそうだった。
「そういうわけじゃなくてだな……」
「だったら、私に手を出すだけ出して、遊びだったの? 既成事実をどうするつもりだったの?」
「はあ……!?」
蒼汰の胸の内に動揺が走る。
(俺は七年間寝てたんだよな? 既成事実を作る時間はなかったはずだし……小学生に手を出したりはしていないはず……)
美織はちょっと変わったことを言う子だし、いつか思い出せると信じて、そのことに関してはひとまず触れないでおこう。
美織のことをそっと引きはがすと、蒼汰は深呼吸をする。そうして、近くに置いてある荷物の中から、とあるものを取り出した。
「君、それは……」
美織がお月様のように真ん丸に目を見開くと歓喜の声を上げる。
「流れ星の欠片!」
そう、彼女が言うように、少し大きめの流れ星の欠片――黄金色のシーグラスとワイヤーで手作りした指輪だった。
「もしかして君の手作りなの? すごく器用! 綺麗!」
「ああ」
蒼汰は目の下を赤く染めながら頷いた。一度咳ばらいをして気を取り直すと、美織のことを改めてまっすぐに見据える。
まるで競泳の際に飛び込み台に立った時のような心境になった。
彼は逸る心臓を抑えながら、真摯に告げる。
「美織、忘れてるところもあるが、俺がちゃんと生きようと思えたのはお前のおかげだった。水泳と同じぐらい、いやそれ以上にお前のことが好きなんだ。どうか結婚を前提に付き合ってほしい」
二十歳そこそこの女性に対して結婚を前提にしての交際は――少々早すぎたかもしれない。
後悔先に立たずだ。
美織の答えを蒼汰は黙って待った。
「すごく嬉しいんだけどね、結婚はダメかも……?」
彼女の返答を聞いて、彼はごくりと唾を呑み込んだ。
内心では「やはりダメだったか」とフラれたショックで焦燥感が激しい。激しい波の上を船で揺らいでいるようだ。
すると、彼女がおずおずと続けた。
「私は……奇跡的に病巣は取ってもらえたけど……あまりにも奇跡的な成功だったから、再発の危険性に関してはまだデータがないからはっきりしたことは言えないって先生から説明されてて……だから、君と結婚しても迷惑をかけちゃうかもしれなくって」
美織の瞳には涙が滲んでいた。
彼女の姿はまるでどこかに消えてしまいそうなぐらい儚いものだった。
「美織」
どうやら彼女は蒼汰のことが嫌だから断るわけではないらしい。
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