116 / 122
最終章 満天の星の下、消えゆく君と恋をする
最終話ー7 ??side
しおりを挟む
思考の整理がつかない。
自分は高校生だったはずなのに。
逸る鼓動を抑えるべく、開いた浴衣の合わせを握った。
「俺は……なんで……?」
別人とは言わないが、明らかに違う自分の姿に戸惑いを隠せない。
「君は、ね……」
何か応えようとしてくれた女性だったが、そこで言葉に詰まってしまう。
「何が起きて……?」
壁にカレンダーが掛かっていた。
八月は八月のようだが、どうやら七年の月日が経っているらしく、平成だったはずの元号が令和という見知らぬものに変わっていた。
ちょうど、その時。
視界の端……窓の向こうで何かが光った。
「あれは……」
もうすっかり暗くなっている外へと視線を移す。
病院の高層にいるからか、階下に広がる大海を見渡すことができた。
男は目を見開く。
広がるのは満天の星。
一度だけ星が流れると、次々に流れはじめた。
大量の流星が海に向かって降り注いでは消えていく。
幻想的な光景に心を奪われる。
男は感嘆の声を漏らした後、ポツリと思ったことを口にした。
「ああ、そうか、この時期は流星群が見えやすい時期だって、教えてもらったな」
そこで男はハッと口を噤む。
どうして自分はこの時期に流星群が見えやすいと知っているのだろうか?
いったい誰がそんなことを教えてくれたのだろうか?
ずっと水泳一筋に生きてきて、星について詳しく調べたことなんてなかったのに。
何も思い出せないけれども、心臓が高鳴りはじめる。嫌な感覚ではなく、どこか居心地の良い鼓動だった。
男が降り注ぐ星々に目を奪われていた、その時――
「君がまた海を泳げますように! 星を愛してくれますように! 幸せになりますように!」
突然、名も知らぬ美少女が、流れ星に向かって願いを叫びはじめた。
「お願いします! どうか、また海を泳げるように! お願いします!」
男はハッとする。
(そうだ。事故に遭って肩を怪我してしまって、水泳選手だった俺は現役選手時代のようにはもう泳ぐことは出来ないと、そんな風に山下先生に宣告されて……)
だから、もう泳ぐのが嫌になって泳がなくなっていたのだ。
そうだった。
けれども……
(どうして、この女性は自分の願いではなく俺のことを願ってくれているのだろう?)
「何でなんだ?」
ズキン。
何かが閃きそうで、だけど、何も閃かない。
ズキンズキン。
記憶がどうしても泡のように消えていく。
同じように以前、彼女が自分のために願いを口にしたことがなかっただろうか?
「……っ……」
思い出そうとすると、頭が割れるように痛くて、何も思い出せない。
男が頭を抱えて呻いていると、女性が身体を支えてくれた。
「君、大丈夫……!?」
「大丈夫、だ……」
男は顔を歪めながら、覗き込んでくる彼女の顔を見上げる。
自分は高校生だったはずなのに。
逸る鼓動を抑えるべく、開いた浴衣の合わせを握った。
「俺は……なんで……?」
別人とは言わないが、明らかに違う自分の姿に戸惑いを隠せない。
「君は、ね……」
何か応えようとしてくれた女性だったが、そこで言葉に詰まってしまう。
「何が起きて……?」
壁にカレンダーが掛かっていた。
八月は八月のようだが、どうやら七年の月日が経っているらしく、平成だったはずの元号が令和という見知らぬものに変わっていた。
ちょうど、その時。
視界の端……窓の向こうで何かが光った。
「あれは……」
もうすっかり暗くなっている外へと視線を移す。
病院の高層にいるからか、階下に広がる大海を見渡すことができた。
男は目を見開く。
広がるのは満天の星。
一度だけ星が流れると、次々に流れはじめた。
大量の流星が海に向かって降り注いでは消えていく。
幻想的な光景に心を奪われる。
男は感嘆の声を漏らした後、ポツリと思ったことを口にした。
「ああ、そうか、この時期は流星群が見えやすい時期だって、教えてもらったな」
そこで男はハッと口を噤む。
どうして自分はこの時期に流星群が見えやすいと知っているのだろうか?
いったい誰がそんなことを教えてくれたのだろうか?
ずっと水泳一筋に生きてきて、星について詳しく調べたことなんてなかったのに。
何も思い出せないけれども、心臓が高鳴りはじめる。嫌な感覚ではなく、どこか居心地の良い鼓動だった。
男が降り注ぐ星々に目を奪われていた、その時――
「君がまた海を泳げますように! 星を愛してくれますように! 幸せになりますように!」
突然、名も知らぬ美少女が、流れ星に向かって願いを叫びはじめた。
「お願いします! どうか、また海を泳げるように! お願いします!」
男はハッとする。
(そうだ。事故に遭って肩を怪我してしまって、水泳選手だった俺は現役選手時代のようにはもう泳ぐことは出来ないと、そんな風に山下先生に宣告されて……)
だから、もう泳ぐのが嫌になって泳がなくなっていたのだ。
そうだった。
けれども……
(どうして、この女性は自分の願いではなく俺のことを願ってくれているのだろう?)
「何でなんだ?」
ズキン。
何かが閃きそうで、だけど、何も閃かない。
ズキンズキン。
記憶がどうしても泡のように消えていく。
同じように以前、彼女が自分のために願いを口にしたことがなかっただろうか?
「……っ……」
思い出そうとすると、頭が割れるように痛くて、何も思い出せない。
男が頭を抱えて呻いていると、女性が身体を支えてくれた。
「君、大丈夫……!?」
「大丈夫、だ……」
男は顔を歪めながら、覗き込んでくる彼女の顔を見上げる。
21
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる