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最終章 満天の星の下、消えゆく君と恋をする

最終話ー7 ??side

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 思考の整理がつかない。
 自分は高校生だったはずなのに。
 逸る鼓動を抑えるべく、開いた浴衣の合わせを握った。

「俺は……なんで……?」

 別人とは言わないが、明らかに違う自分の姿に戸惑いを隠せない。

「君は、ね……」

 何か応えようとしてくれた女性だったが、そこで言葉に詰まってしまう。

「何が起きて……?」

 壁にカレンダーが掛かっていた。
 八月は八月のようだが、どうやら七年の月日が経っているらしく、平成だったはずの元号が令和という見知らぬものに変わっていた。

 ちょうど、その時。
 視界の端……窓の向こうで何かが光った。

「あれは……」

 もうすっかり暗くなっている外へと視線を移す。
 病院の高層にいるからか、階下に広がる大海を見渡すことができた。
 男は目を見開く。
 広がるのは満天の星。
 一度だけ星が流れると、次々に流れはじめた。
 大量の流星が海に向かって降り注いでは消えていく。
 幻想的な光景に心を奪われる。
 男は感嘆の声を漏らした後、ポツリと思ったことを口にした。

「ああ、そうか、この時期は流星群が見えやすい時期だって、教えてもらったな」

 そこで男はハッと口を噤む。
 どうして自分はこの時期に流星群が見えやすいと知っているのだろうか?
 いったい誰がそんなことを教えてくれたのだろうか?
 ずっと水泳一筋に生きてきて、星について詳しく調べたことなんてなかったのに。
 何も思い出せないけれども、心臓が高鳴りはじめる。嫌な感覚ではなく、どこか居心地の良い鼓動だった。
 男が降り注ぐ星々に目を奪われていた、その時――

「君がまた海を泳げますように! 星を愛してくれますように! 幸せになりますように!」

 突然、名も知らぬ美少女が、流れ星に向かって願いを叫びはじめた。

「お願いします! どうか、また海を泳げるように! お願いします!」

 男はハッとする。

(そうだ。事故に遭って肩を怪我してしまって、水泳選手だった俺は現役選手時代のようにはもう泳ぐことは出来ないと、そんな風に山下先生に宣告されて……)

 だから、もう泳ぐのが嫌になって泳がなくなっていたのだ。
 そうだった。

 けれども……

(どうして、この女性は自分の願いではなく俺のことを願ってくれているのだろう?)

「何でなんだ?」

 ズキン。
 何かが閃きそうで、だけど、何も閃かない。
 ズキンズキン。
 記憶がどうしても泡のように消えていく。
 同じように以前、彼女が自分のために願いを口にしたことがなかっただろうか?

「……っ……」

 思い出そうとすると、頭が割れるように痛くて、何も思い出せない。
 男が頭を抱えて呻いていると、女性が身体を支えてくれた。

「君、大丈夫……!?」

「大丈夫、だ……」

 男は顔を歪めながら、覗き込んでくる彼女の顔を見上げる。

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