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第5章 荒れ狂う海、消えゆく君を追いかける

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 暴風雨の中、現れたのは昼空学だった。

「帰るぞ! ……っ……なんだ、お前……?」

 その時、彼はぎょっとしていた。だが、すぐに目を凝らすと、ほっと溜息を吐く。

「気のせいか。ほら、台風で危ないのは分かっているだろう!? 帰るよ!」

 だが、美織が抵抗する。

「今度こそ帰らない! ちゃんとこの人に時計を返してからじゃないと!」

 すると、学が眦を吊り上げた。

「だから、誰もいないんだよ、美織……その時計は……!」

 そうして、時計の刻印に目を見やる。

「SOUTA.A……あの男のものか……」

 すると、美織の手から学が腕時計を勢いよく奪い取る。

「きゃっ、何するの……!」

 ……こいつ……!

 学の手から時計を奪い返してやりたかったが、いよいよ蒼汰の腕は上腕の辺りまで透けはじめており、それは叶わなかった。
 そうして、学が自身のポケットの中にそれをしまった。

「返して、学くん!」

「後から返すから、とにかく帰るぞ」

 その時、学が差していた傘がびゅうっと強い風に煽られ、波の瀬戸際へと落ちる。

「くそっ、こんな時に傘が」

「待て、この荒れている海の中に近づくのは、やめておけ!!」

 だが、静止も聞かずに学は波に近づき、こちらを振り返った。

「美織、傘を確保したら帰るからな……っ、なんだ、お前っ……!」

 ふと、蒼汰は何かに気付く。

「な、お前……なんでっ、美織のそばに……」

 昼空学が悲鳴じみた声を上げた。
 先ほどもそうだったが、死んでいるはずの蒼汰の姿に、昼空学は気づいているような節があった。

 それはつまり……

 消えゆく蒼汰は声を上げる。

「まずい、美織、このままだと、昼空学は死ぬ!」

「え? そんなっ」

 直後――

 先ほどまでとは違い、強い波が昼空学の足を掬う。そのまま転んでしまい、波に身体を飲み込まれてしまう。

「プールと海じゃあな、違うんだよ! 海舐めんなっての!!」

 蒼汰の身体は勝手に砂浜を駆けていた。
 濡れて硬くなった砂を踏みしめて、学に向かって手を差し伸べる。

「良いから、手を差し出せ!!」

 海の中に飲まれそうになっていた学は恐怖で悲鳴を上げる。

「うああっ、うっ、どうしてっ」

 学が溺れているのは、そんなに遠い距離じゃあない。
 だが、いつもとは違う事態で錯乱してしまっているのだろう。
 そうして、学の元に辿り着くと、首根っこを掴んだ。

「ほら、暴れるなっての、本当にお前は水泳部の期待のエースなのかよ!」

 文句を言いながら、蒼汰は学を浜へと引き上げた。

「ほら、さっさと美織を病院へ連れて行けっての!」

 どんどん潮位が上がってきている。速く岸辺に上がらないと、今度こそ三人とも海に飲まれてしまうだろう。

「何が、起きてるんだ?」

 学はゲホゲホと咳込んだ後、美織を置いて防波堤のある海岸線へと急ぐ。

「ほら、美織、行くぞ! 波が迫ってきている!」

「うん、分かった」

 そうして、二人して今から防波堤へと向かおうとした、その時――

「あっ……!!」

 美織が悲鳴を上げる。

「美織……!」


 彼女の背後、暴れ狂う波が迫ってきた。

 五年前のあの時のように、荒波が二人のことを飲み込もうとしてきたのだった。


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