105 / 122
第5章 荒れ狂う海、消えゆく君を追いかける
28-3
しおりを挟む暴風雨の中、現れたのは昼空学だった。
「帰るぞ! ……っ……なんだ、お前……?」
その時、彼はぎょっとしていた。だが、すぐに目を凝らすと、ほっと溜息を吐く。
「気のせいか。ほら、台風で危ないのは分かっているだろう!? 帰るよ!」
だが、美織が抵抗する。
「今度こそ帰らない! ちゃんとこの人に時計を返してからじゃないと!」
すると、学が眦を吊り上げた。
「だから、誰もいないんだよ、美織……その時計は……!」
そうして、時計の刻印に目を見やる。
「SOUTA.A……あの男のものか……」
すると、美織の手から学が腕時計を勢いよく奪い取る。
「きゃっ、何するの……!」
……こいつ……!
学の手から時計を奪い返してやりたかったが、いよいよ蒼汰の腕は上腕の辺りまで透けはじめており、それは叶わなかった。
そうして、学が自身のポケットの中にそれをしまった。
「返して、学くん!」
「後から返すから、とにかく帰るぞ」
その時、学が差していた傘がびゅうっと強い風に煽られ、波の瀬戸際へと落ちる。
「くそっ、こんな時に傘が」
「待て、この荒れている海の中に近づくのは、やめておけ!!」
だが、静止も聞かずに学は波に近づき、こちらを振り返った。
「美織、傘を確保したら帰るからな……っ、なんだ、お前っ……!」
ふと、蒼汰は何かに気付く。
「な、お前……なんでっ、美織のそばに……」
昼空学が悲鳴じみた声を上げた。
先ほどもそうだったが、死んでいるはずの蒼汰の姿に、昼空学は気づいているような節があった。
それはつまり……
消えゆく蒼汰は声を上げる。
「まずい、美織、このままだと、昼空学は死ぬ!」
「え? そんなっ」
直後――
先ほどまでとは違い、強い波が昼空学の足を掬う。そのまま転んでしまい、波に身体を飲み込まれてしまう。
「プールと海じゃあな、違うんだよ! 海舐めんなっての!!」
蒼汰の身体は勝手に砂浜を駆けていた。
濡れて硬くなった砂を踏みしめて、学に向かって手を差し伸べる。
「良いから、手を差し出せ!!」
海の中に飲まれそうになっていた学は恐怖で悲鳴を上げる。
「うああっ、うっ、どうしてっ」
学が溺れているのは、そんなに遠い距離じゃあない。
だが、いつもとは違う事態で錯乱してしまっているのだろう。
そうして、学の元に辿り着くと、首根っこを掴んだ。
「ほら、暴れるなっての、本当にお前は水泳部の期待のエースなのかよ!」
文句を言いながら、蒼汰は学を浜へと引き上げた。
「ほら、さっさと美織を病院へ連れて行けっての!」
どんどん潮位が上がってきている。速く岸辺に上がらないと、今度こそ三人とも海に飲まれてしまうだろう。
「何が、起きてるんだ?」
学はゲホゲホと咳込んだ後、美織を置いて防波堤のある海岸線へと急ぐ。
「ほら、美織、行くぞ! 波が迫ってきている!」
「うん、分かった」
そうして、二人して今から防波堤へと向かおうとした、その時――
「あっ……!!」
美織が悲鳴を上げる。
「美織……!」
彼女の背後、暴れ狂う波が迫ってきた。
五年前のあの時のように、荒波が二人のことを飲み込もうとしてきたのだった。
21
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
イラスト部(仮)の雨宮さんはペンが持てない!~スキンシップ多めの美少女幽霊と部活を立ち上げる話~
川上とむ
青春
内川護は高校の空き教室で、元気な幽霊の少女と出会う。
その幽霊少女は雨宮と名乗り、自分の代わりにイラスト部を復活させてほしいと頼み込んでくる。
彼女の押しに負けた護は部員の勧誘をはじめるが、入部してくるのは霊感持ちのクラス委員長や、ゆるふわな先輩といった一風変わった女生徒たち。
その一方で、雨宮はことあるごとに護と行動をともにするようになり、二人の距離は自然と近づいていく。
――スキンシップ過多の幽霊さんとスクールライフ、ここに開幕!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
タカラジェンヌへの軌跡
赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら
夢はでっかく宝塚!
中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。
でも彼女には決定的な欠陥が
受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。
限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。
脇を囲む教師たちと高校生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる