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第5章 荒れ狂う海、消えゆく君を追いかける
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しおりを挟む先ほど耐え抜いたばかりなのに、蒼汰はこらえきれずに彼女に手を差し伸べようとしてしまう。
その時、自分自身の手を見てハッとする。
「これは……」
陽に当たると透けて見えていたのだが、指だけでなく肘の辺りまで、夜でもすっかり透けるようになってしまっていた。
美織の言う通り、本当に今日が最後になるかもしれない。
「そうか、俺は、消えるんだな」
なんとなく悟ってしまった。
何かしら自分自身に未練が残っていると思っていた。
それについては結局何なのか分からないままだが……
「お前、手術を受けるんだろう? 受けたら、長生きできるかもしれないんだろう? だったらさ、ちゃんと受けろよ」
「私が手術を受けて長く生きたいって思ったのは、君と一緒に過ごしたいからなんだよ。だから、君と一緒に入れないんだったら、長く生きたって意味がなくって……」
美織の涙には嘘がなくて、とても透明で、儚くて……
なんて綺麗なのだろうか。
蒼汰はもう見えなくなった拳をぎゅっと握って、自身の存在を確かめた後、彼女に向かって告げた。
「あの日のこと、幼いお前は、自分のせいで俺がこうなってしまったんだと思ったのかもしれない。だけど、違うんだ」
「違う……?」
「ああ、五年前の俺は……色んなことに絶望して、自分で命を絶とうとしていた」
「……っ……」
「だから、お前が俺のことを気にする必要なんて、ないんだ。むしろ、俺としてはお前を助けることが出来て良かったぐらいだ」
「でも……」
何か言い掛けた美織に対して、蒼汰は首を横に振った。
「だがな、五年経って、こうやって生身の俺じゃあないわけだが、お前のおかげで色々と前向きに考えることができるようになった。ありがとうな。あのまま死んでたら未練タラタラだったかもしれないが、俺はちゃんとこうして綺麗な俺のまま消えることが出来そうだ」
「……っ……」
美織がその時、ポシェットから何かを取り出した。
蒼汰が貸していた腕時計だ。
「腕時計、返すから」
「……もうお前にだって、俺の腕は見えないだろう?」
だが、美織はそっと蒼汰の透明な腕をそっと握ってきた。
「……っ……美織……」
「目には見えないけど、君は確かにここにいるね」
そうして、彼女が彼の手首に時計を嵌めてこようとする。
「この辺り、うまく巻けないけど、ちゃんとここに君がいるの、分かるから……」
一生懸命手に巻こうとする美織の優しさに触れて、蒼汰の胸は熱くなった。
「美織、もういい。この時計、お前にやるよ」
「え?」
「手術、うまくいくように、願掛け代わりに持っててくれよ」
すると、美織が上目遣いでこちらを見てきた。
「本当に良いの……?」
「ああ、もちろん。そうだ、俺もお前に――」
そうして、千切れた根付と流れ星の欠片が詰まった小瓶を手渡そうとした、その時――
「美織、ここにいたのか!」
第三者の声が聴こえる。
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