上 下
102 / 122
第5章 荒れ狂う海、消えゆく君を追いかける

27-5

しおりを挟む

 そうして、現在。
 美織は、荒れ狂う海を横目に海岸線の道路を駆けていた。

「当の本人からフラれちゃうなんてね」

 思わず苦笑いをした。
 彼と一緒に過ごせないなら、手術だって受ける価値はないのに……

「ふう……」

 美織はちょっとだけ立ち止まる。
 病室から持って来たポシェットから、彼からの借りた物を取り出す。
 ベルトがぶかぶかの銀色の腕時計。
 ちょっとだけ年寄りのような趣味のそれを見て、美織はクスリと微笑んだ。

「なんだかおじさんみたいな趣味だな。まあ、本当は五歳年上だから仕方ないか。あの人に腕時計を返さなきゃ……」

 もう会いたくないと言われたけれど、何か言い訳をつけて蒼汰に会いたかったのだ。


「行かなきゃ……どうせフラれるなら、ちゃんと自分の気持ちを伝えてから」


 手術だって絶対成功するわけじゃない。
 悔いを残して死にたくはない。
 生き延びるにしても、ちゃんと乗り超えてからにしたいのだ。
 そうして、美織は前を見据える。
 また強い風が吹き、雨がポツポツと降り始めた中、いつも二人で過ごした海岸へと風と一緒になって駆けていったのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

切り裂かれた髪、結ばれた絆

S.H.L
青春
高校の女子野球部のチームメートに嫉妬から髪を短く切られてしまう話

井上キャプテン

S.H.L
青春
チームみんなで坊主になる話

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

坊主の決意:ちひろの変身物語

S.H.L
青春
### 坊主のちひろと仲間たち:変化と絆の物語 ちひろは高校時代、友達も少なく、スポーツにも無縁な日々を過ごしていた。しかし、担任の佐藤先生の勧めでソフトボール部に入部し、新しい仲間たちと共に高校生活を楽しむことができた。高校卒業後、柔道整復師を目指して専門学校に進学し、厳しい勉強に励む一方で、成人式に向けて髪を伸ばし始める。 専門学校卒業後、大手の整骨院に就職したちひろは、忙しい日々を送る中で、高校時代の恩師、佐藤先生から再び連絡を受ける。佐藤先生の奥さんが美容院でカットモデルを募集しており、ちひろに依頼が来る。高額な謝礼金に心を動かされ、ちひろはカットモデルを引き受けることに。 美容院での撮影中、ちひろは長い髪をセミロング、ボブ、ツーブロック、そして最終的にスキンヘッドにカットされる。新しい自分と向き合いながら、ちひろは自分の内面の強さと柔軟性を再発見する。仕事や日常生活でも、スキンヘッドのちひろは周囲に驚きと感動を与え、友人たちや同僚からも応援を受ける。 さらに、ちひろは同級生たちにもカットモデルを提案し、多くの仲間が参加することで、新たな絆が生まれる。成人式では、ロングヘアの同級生たちとスキンヘッドの仲間たちで特別な集合写真を撮影し、その絆を再確認する。 カットモデルの経験を通じて得た収益を元に、ちひろは自分の治療院を開くことを決意。結婚式では、再び髪をカットするサプライズ演出で会場を盛り上げ、夫となった拓也と共に新しい未来を誓う。 ちひろの物語は、外見の変化を通じて内面の成長を描き、友情と挑戦を通じて新たな自分を見つける旅路である。彼女の強さと勇気は、周囲の人々にも影響を与え、未来へと続く新しい一歩を踏み出す力となる。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

「ユリって雑草だよね」

ちありや
青春
誰の手も借りる事無く気高く咲く花がある。 彼女はその花の様になりたかった……。

透明な僕たちが色づいていく

川奈あさ
青春
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する 空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。 家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。 そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」 苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。 ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。 二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。 誰かになりたくて、なれなかった。 透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。 表紙イラスト aki様

処理中です...