85 / 122
第5章 荒れ狂う海、消えゆく君を追いかける
24-1 流れ星の欠片
しおりを挟むリビングのソファに座る蒼汰に気付くはずもなく、ほのかは恭平をたまたま蒼汰の座るソファの斜め前にある一人がけのソファへと案内した。
ほのかはもう高校二年生になっているはずだ。夏祭りで遭遇した時とは違って、今日はブラウスにスカートという美織がしそうな清楚な雰囲気の格好をしていた。
恭平は昔と同じようにお調子者の雰囲気を残しつつも、以前と比べると大人びた顔つきをしていた。元々がっちりしていた体格もより筋骨隆々とした雰囲気になっていた。
ダイニングスペースへと移動したほのかが恭平に向かって声をかける。
「恭ちゃん、麦茶で良い?」
「ああ、ほのか、助かるよ、ありがとう」
蒼汰と恭平は幼馴染であり親友同士でいつも一緒に活動していた。
五つ年下のほのかは、自分たちの水泳の大会なんかにもいつも着いてきていたし、恭平とほのかが仲が良くても違和感はない。
ないのだが……
(俺なしで二人が仲が良いのはなんとなく違和感があるのは何でだろうな)
蒼汰としては少しだけ複雑な心境だった。
ほのかが恭平に向かって声を掛ける。
「恭ちゃん、ありがとう。お父さん以外の先生たちがこぞって感染症にかかったとかで、連日当直になっていなくってさ。台風が来るっていうのに『役場に避難しろ』って電話があったきりで困ってたんだよね」
「まあ、親父さんは忙しいんだから仕方ないさ」
「恭ちゃんがたまたま島に帰ってきてくれてて良かったよ」
「俺で手伝えることがあるんだったら何でも言ってくれよ」
ほのかが頬を朱に染めながら返答すると、どうしてだか恭平もまんざらでもなさそうに目の下を赤らめていた。
会話の内容を察するに、接近する台風に備えた準備をするために、ほのかが恭平の助けを借りたらしい。
それにしたって……
(やっぱり何だかモヤモヤするぜ)
蒼汰としてはやはり複雑な心境だった。
そんな中、ほのかがソファに歩んでくると、恭平の前に冷えた麦茶の入ったグラスを置いた。
そうして、二人してグラスに口をつけた後、しばらく談笑を始める。恭平が本土での大学生活の話をしている中、サークルにいる可愛い同級生の話をしはじめると、ほのかの機嫌がだいぶ悪くなった。慌てた様子の恭平が茶を濁して別の話題に切り替えようとしたのを察したのか、ほのかが今度は話しはじめる。
「そうだ、恭ちゃん、美織のことなんだけどさ」
突如として美織の話題が飛び出てきたのだから、蒼汰としても動揺した。
(美織の話)
蒼汰の心臓がドクンと跳ね上がる。
21
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる