満天の星の下、消えゆく君と恋をする

おうぎまちこ(あきたこまち)

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第5章 荒れ狂う海、消えゆく君を追いかける

23ー1 蒼汰の未練

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 美織と会わなくなって数日が経った、とある早朝。
 蒼汰はといえば、結局成仏できないまま、自宅の中で悶々と過ごしていた。
 そもそも家が仏教だったかキリスト教だったのか、はたまた神道だったのか……うろ覚えだったから、成仏で正しいのかは正直分からないが……どちらにせよ、彼はまだこの世界で過ごしていた。

「五年経っているから、親父も老けていたし、ほのかも女子高生になっていたな」

 高校生の頃と変わらない自分に対して、家族二人はだいぶ様変わりしていた。
 そりゃあ、最近見た父親が老けたと感じてもおかしくはないわけである。

「仏壇も準備してないとか、結構冷たい家族だよな。まあ俺の写真はピアノの上に飾ってあったが……ああ、仏壇飾ってないのは、母さんがキリスト教だったからかな? 言われてみれば、母さんも写真だしな」

 そう言われると仏壇は管理が難しいからと、父が母の写真だけにしたことを思い出す。
 今にして思えば、父は死んだ母が亡くなったことを認めたくなかったのかもしれないと漠然と感じてしまった。

「好きな相手がもう二度と目を覚まさないとか、死んでいるだとか、もう会えないとか……認めたくないよな」

 蒼汰は父親に対して同情的な気持ちになった。
 なぜならば自分自身美織ともう二度と会えないのだと思うと苦しくて仕方がなかったからだ。

(美織と会わなくなってから、俺なりに色々調べたりはしたが……)

 結局、どうして蒼汰が現世に留まっているのか、合理的な理由を見つけることは出来なかった。
 とりあえず霊魂は生前の未練が解消されれば消えることが多いというのはよく聞く話だ。

「とにかく未練を解消して成仏しなきゃな」

 彼はふと気づく。

「そもそも、結局、俺のこの世の未練ってのは、やっぱり水泳なのかよ?」

 美織と星空の観察をして過ごす日々の中で、泳げないことに対する執着はだいぶ薄れてきていたように思う。
 もちろん水泳がどうでも良くなったとか、そういうことではない。
 以前のように泳げなかったのだとしても……愛し続けてきたはずの水泳に対して抱くようになってしまっていた重くて苦い気持ちから解放されたといった方が近いのかもしれない。

「きっと水泳のはず……だよな」

 蒼汰自身は一年間家に引きこもっていたと錯覚していたが、おそらく死んだことに気付かずに過ごしていた五年間ずっと水泳に対する後悔を抱え込んでいたのだし、未練は水泳で間違いないはずなのだが……

「なんだろうな、それだけじゃない気もするんだよな」

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