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第4章 夏の終わり、消えゆく君が別れを告げる
22-1 別れを告げる
しおりを挟む線香花火が燃え尽きて、真っ暗で静寂な中、しばらく過ごした。
「昨日の話なんだけど……」
美織が昨日の話をはじめた。
「ええっとね、君もびっくりしたと思うんだけどさ、私が想像していることを私の口からちゃんと伝えたいなと思ってて」
「想像?」
「うん。昨日言いかけたことなんだけど、私ね、君のことで実は思ってることがあるんだ。ええっと、昨日は学くんが色々言ってたことは、とりあえず、あんまり気にしないでほしいんだ」
「あいつの言ってたことって、俺がお前を海で庇って波にさらわれた話か?」
死んだ、という直接的な表現は、彼女のことを傷つけるかもしれない。そんな風に思って、言葉をオブラートに包み込むことにした。
「うん、私が台風の日に海に近づいたのが全部悪いんだ。だけど、子どもの頃の罪悪感があるから今の君に近づいたんじゃないんだ。悪いことをしたことを君に許してもらいたいだとか、そんなつもりで近づいたわけでもなくて……」
こちらのことを慮って言葉を選んでくる彼女のことがあまりにも健気で抱きしめたくなった。
だけど、それはもうできない。
……今でも美織の温もりを覚えている。
思い出すと妙に胸が苦しくなってきた。
だが、蒼汰はきゅっと唇を引き結ぶ。
様子がおかしいことに気付いたのだろう、彼女の表情が陰った。
「君からしたらイヤだよね。あの時私を庇っていなければ、君は今頃、ちゃんと年を重ねて、もっと色んなことを経験できたかもしれない。山下先生と一緒の大学で楽しく過ごしていた可能性だってあるし、ほのかだって大好きなお兄ちゃんと一緒にもっと過ごすことが出来たのかもしれない。なのに……」
まだ暗闇に目が慣れないが、美織が後悔して泣いているのが伝わってくる。
「貴方の大事な時間を奪うようなことをしてしまって……本当にごめんなさい……ごめん、なさい……」
泣きじゃくる美織のことを本当は抱きしめたかった。
だけど、できない。
できないのだ。
蒼汰は言葉を選んで伝えることにする。
「俺は気にしていない」
「え?」
美織がこちらに顔を向けたのが、なんとなく分かった。
「お前に時間を奪われたとも思っていない。そもそも俺の時間は高校三年の夏で止まっているんだからな。そんな感覚すらない」
「あ……」
美織の声が震えた。
蒼汰は一度だけ瞼を閉じる。そうして、瞼を持ち上げると、暗闇に慣れてきていた。
美織の顔が先ほど以上にくっきりと確認できる。
ちゃんと相手に向かって伝えないといけない。
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