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第4章 夏の終わり、消えゆく君が別れを告げる

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 まだ生死不明の状態だったからだろう。未成年者である自分の名前は記載されてはいなかった。だが、状況を見て間違いなく蒼汰のことだ。

「翌日の新聞には……さすがに連日患者の容態を記事にしたりはしないか」

 新聞を折りたたみ、元のラックに戻そうとしたが、事実が重くて動く気がしなかった。
 すぐそばのカウンターに座る眼鏡のおばさん司書を眺めてみる。
 蒼汰はかなり相手を注視したけれども、カード類の整理で忙しいからか、そもそも彼のことが視えていないからか、とくにこちらを振り返ってくることはなかった。
 図書館のカードを所持していれば、特に司書の手を借りずとも蔵書は貸出できる。
 市民図書館ではあるが、わざわざ死亡しているからといって、会員削除などはしないのだろう。
 だから、蒼汰が本を借りても問題が生じていなかったのだ。

「延滞とかしていたんなら、死んだ奴が本を借りに来ているって話題になったかもな」

 考えてもみればだが、司書だって自分のことを認識していないのだ。
 通りすがりの人たちにも、ましては近くにいたはずの美織の友人たちも学でさえも視えていなかった。
 だとしたら、家族から無視されていたわけじゃあない。
 そもそも自分が死んでいて存在を認識できなかったから、声をかけようもなかったのだ。

「本当、そんなオチだったとはな」

 新聞を思わずぐしゃりと握りしめそうになったが耐える。代わりにコツンと机の上に突っ伏した。
 到底受け入れられる事実ではないが、誰も自分のことが視えていないのだ。
 それに新聞記事にも掲載されているぐらいの出来事なのだ。
 今にして思えば、やけにクローゼットの中身が段ボールに仕舞われていると思ったが、父や妹のほのかが片づけたのだろう。

「俺がもうとっくの昔に死んでいたとはな」

 だとすれば、どうして美織には俺の姿が見えていたんだ?
 深海に潜り込んでしまったかのように、押しつぶされそうな気持ちの中、考える。
 死んでいるはずの蒼汰のことが美織には見えていた。

(そもそもどうして五年経って、俺はこんな風に美織の前に姿を現わしたんだ?)

 神様の気まぐれというやつだろうか?
 学に連れ去られる美織が叫んでいた内容を思い出す。

『流れ星にお願いしたから』

 蒼汰はふっと口の端を持ち上げた。

「なんだよ、あいつが流れ星に願ったから、現世に戻ってきたってことかよ。じゃあ、わりと御利益あるのかもな」

 つっぷした顔を横にして自分の掌を眺めてみる。
 蒼汰が自身が本当は死者だということを認識しはじめたからか、いついかなる時も自分の身体が透けているように見えてきた。
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