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第4章 夏の終わり、消えゆく君が別れを告げる
20-1 蒼汰が美織にもたらすもの
しおりを挟む蒼汰が次に気づいた時には、すでに朝を迎えていた。
ずっと立ったままだたようだが、どことなく疲れてはいなかった。
「疲れてないって、そりゃあそうか」
陽の光に当たる自分の身体を見て、よくわかった。
どこまでも透けていて、手をかざすと、海が見えた。
「図書館には通ってたが、わざわざ自分の身体を眺めないしな」
今の蒼汰は、いわゆる残留思念というやつだろうか?
この世に未練を残して死んだ男子高校生が霊となって姿を現わしただなんて、出来すぎた話である。
ポケットに手を差し入れると、スマホを取り出す。
「スマホに触れたり、ちゃんと自転車漕いだりしていたんだが……」
とにかく人気を避けていたから幸いしたが、もしもスマホが宙に浮いているところや無人の自転車が動いているのを見られていたら、目撃者は腰を抜かして驚いていたかもしれない。
「じゃあ、今着てる洋服とかもどうなるんだろうな?」
そこでとある事実に気付く。
スマホも一緒に透けていたのだ。
「ああ、なるほど、俺に触れたものも透けるようになるってわけか」
だから、人々には蒼汰のことが視えなかったのだろう。
「でも、図書館のPCとかは透けてないわけだし……だとしたら、俺の所有物だけが透ける都合が良い話だな」
蒼汰は独り言ちた後、スマホをタップしてインターネットで「島 水難事故」とキーワードを入力して調べてみたが、うまく検索できなかった。
「仕方がない、図書館に行ってみるか」
そうして、地元の図書館へと自転車を漕いで向かった。
途中、中学生数人の自転車とすれ違ったが、やはり彼らには蒼汰のことは視えていないようだった。同様に畑で作業をしている人たちからも認識はされていない。
「はあ、マジで俺、透明人間なんだな」
改めて事実を強く意識してしまった。
図書館の中へと急ぐ。だいぶ外が涼しくなってきているので、前回来た時のような寒暖差は大きくは感じなかった。
備え付けのPCで検索をかけてみたが、やはり島での出来事だからだろう、蒼汰と美織の水難事故については、全国紙のように大々的には報道されていない。
「台風、台風か」
蒼汰は今日の新聞へと視線を移した。
最後に彼が認識している年よりも、どうやら五年の月日が流れているようだ。
五年前の八月のローカル新聞社の新聞に目を通す。
一日から初めてガサガサと探る。
そうして、どうにか辿り着くことに成功した。
日付は五年前の八月二十三日。
「台風十九号到来、小学生女児を庇った男子高校生、生死不明の重体、高潮に飲まれた高校水泳期待のエース、夢半ばに散る……か」
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