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第4章 夏の終わり、消えゆく君が別れを告げる

18-5

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(なんなんだ、今の記憶は……)

 蒼汰は頭を振った。心臓が早鐘のように高鳴ってうるさい。
 美織はガタガタと震えたままだ。
 学が続ける。

「あの人がお前を庇ったのは……」

 また蒼汰の中で何かが閃く。

(俺は……)

 高潮にさらわれそうになった少女の元へと駆けた。
 彼女の華奢な身体を抱きしめた、その時、そのまま――

「やめてっ!! 学くんっ! この人の前でその話はしないで!!」

 話を遮るかのように叫んだ美織に対して、学が端正な顔を歪めた。

「この人? 美織、お前は何を言っているんだ」

「いるのよ、ちゃんといるのよ、ここに……嘘じゃない……もうすぐ私も死ぬのよ、だから……! 昔もらった流れ星の欠片が私の願いを叶えてくれたんだから! せっかくこの人に会えたのに、邪魔しないで……!!」

 泣き叫ぶ美織の言葉がすんなりとは入ってこない。
 ドクンドクンドクンドクン。

「美織、お前は……」

 蒼汰は背後に立つ彼女の方へと振り返る。

(いったい何の話をしている?)

 美織は、流れ星が願いを叶えてくれたから、蒼汰と会えたと訴えたような気がする。
 どう考えても理解が出来ない。
 学が困惑しつつも慎重に言葉を選んで発言しはじめる。

「美織、お前……」

「違う、違うわ、ちゃんとここにいるのよ、いるんだから……!」

 美織が錯乱したかのように髪を振り乱しながら否定していた。
 そんな彼女に向かって学は申し訳なさそうに告げる。

「美織、すまないが……」

 名前を呼ばれた彼女がハッと顔を上げる。
 蒼汰は彼女を支えたかったが、どうしてだか触れてはいけない気がして、躊躇してしまう。

「俺にはお前のいう、この人というのが分からないんだ」

 蒼汰の全身に雷に打たれたかのような衝撃が駆け抜けた。
 全身の血が沸騰して煮えくり返って、そのまま蒸発してしまうような錯覚に陥る。
 砂浜に確かに立っているはずなのに、蟻地獄か何かに引きずり込まれて前後不覚になってしまっているような、そんな感覚が全身を襲ってきた。
 認めるのが怖かった。
 けれども、気付いてしまった。

(……学には俺が……)

 ――見えていない。

 その事実が蒼汰の心を打ちのめしてきたのだった。


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