満天の星の下、消えゆく君と恋をする

おうぎまちこ(あきたこまち)

文字の大きさ
上 下
67 / 122
第4章 夏の終わり、消えゆく君が別れを告げる

18-3

しおりを挟む
 水泳界から姿を消して引きこもっていた。
 そんな人物がこの島に何人もいるはずもない。
 蒼汰は一つの事実に行きついた。

(だとすれば、自惚れでもなんでもなく、美織の憧れの男というのは俺なのか?)

 美織は以前から自分のことを知ってくれていたのだ。
 そう思うと、蒼汰の胸は不安でいっぱいだったが、嬉しさが塗り替えてくれるようだ。
 だが、どうしても違和感を拭えない。
 先ほどから頭の中で警鐘のようなものが鳴りやんではくれないのだ。
 すると、学が続ける。

「ああ、そうかそういうことか。僕と付き合えないのは、あの事件のことを気にしているからなのかい? そうなんだろう、美織?」

「違う……それ以上、色々、言わないで」

 明らかに怯えた様子の美織に向かって、学が畳みかけるように続けた。

「あの事件は不幸な事故だったんだ。小学生だったんだし、負い目を感じる必要はない。あの人は、君が殺したわけじゃない。だから、君はもっと幸せになって良い。わざわざお前がそいつのために自分の幸せを我慢することはないんだ!」

 突然、思いがけない話となったために、蒼汰は目を見開いた。

 事件……?
 美織が殺した……?

 どういうことなのか分からないが、目の前の学は蒼汰が知らない美織の過去を知っているのだ。
 蒼汰の背にしがみついている美織は、カタカタと震えていた。

(どういうことだ……?)
 
 蒼汰は情報の整理が出来ない。
 気になる話題だったが、ここで学を辞めさせた方が良いかもしれない。
 そうでないと美織の繊細な心が砕けて散ってしまいかねない。
 そんな風に思った蒼汰は学を睨みつける。

「おい、お前、やめろよ」

「なんだ?」

 蒼汰が学の手首を掴もうとしたが、さっと払われてしまった。

「おい、昼空とかいうやつ、聞いてるのかよ!?」

 すると――
 学が流麗な眉を顰める。そうして、吐き捨てるように言い放った。

「今の、誰かに触れられたような気がしたが、なんなんだ……?」

 相手の反応を聞いて、蒼汰の全身が総毛だった。
 まるで蒼汰のことを透明人間か何かだと思っているかのような反応だ。

(なんなんだ、こいつは……?)

 人として認識されていないような感覚に陥ってしまい、怒りよりも恐怖の方が背筋を這いあがってくる。震えている美織以上に、指先が震えはじめ、感覚がなくなっていくようだ。
 ドクンドクンドクンドクン。

 先ほどから感じている違和感の正体。

(なんだ、俺は……)

 だんだん、蒼汰の自他が曖昧になっていくようだ。
 背後を振り返るまでもなく、美織の震えは止まらなかった。
 学は眉根を寄せながら彼女に問いかける。

「美織、あの台風の事件の時以来、海に来ることなんてなかったのに、どうして……?」

 台風が来ている時の海は時化る。事件の時、美織は台風なのに海に近づいたというのだろうか?
 ざわり。
 蒼汰の胸中に黒い靄のようなものが生まれると同時に、頭の中の白い靄のようなものが、一瞬だけ晴れたような感覚が陥る。そうして、彼の中で何かが閃いた。

しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

僕は 彼女の彼氏のはずなんだ

すんのはじめ
青春
昔、つぶれていった父のレストランを復活させるために その娘は 僕等4人の仲好しグループは同じ小学校を出て、中学校も同じで、地域では有名な進学高校を目指していた。中でも、中道美鈴には特別な想いがあったが、中学を卒業する時、彼女の消息が突然消えてしまった。僕は、彼女のことを忘れることが出来なくて、大学3年になって、ようやく探し出せた。それからの彼女は、高校進学を犠牲にしてまでも、昔、つぶされた様な形になった父のレストランを復活させるため、その思いを秘め、色々と奮闘してゆく

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

処理中です...