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第4章 夏の終わり、消えゆく君が別れを告げる
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蒼汰の鼓動が激しく脈打つと同時に、一気に血の気が一斉に引いていく。
(昼空学が水泳の個人競技で県内一位?)
末梢の感覚がどんどん失われていく。
夏だというのに寒気が走った。
蒼汰の声が震える。
「なんでだよ」
昨年までは蒼汰がいたはずの場所に、今は美織の幼馴染の学がいるという真実が、蒼汰にとっては、どうしようもなく耐えがたかった。
わなわなと全身が震える。自分では落ち着けることは出来なかった。
その時。
「彼が一番だったから憧れたんじゃない。貴方が一番だから、好きになるわけじゃない」
背後にいる美織の声を耳にして蒼汰はハッとする。
震えているけれども、静かなのに力強い声音だった。
蒼汰は深呼吸を何度か繰り返して自分のことを宥める。
(自分が引退した後に、かつての自分と同じ境遇になる奴がいたって、おかしくはないさ)
そもそも蒼汰は学と同じ大会で戦ったわけでもなんでもない。
同じ人間でも、置かれている立場や状況や環境、全てが違うのだ。
勝手に比較して、今の自分にないものを持った相手に対して嫉妬で身を滅ぼして、本当に大切なものを見失うところだった。
蒼汰は両手で自身の頬を叩くと気合を入れ直した。
そうして、学を見据える。
(そもそも、この昼空学って奴は……)
美織よりも学年が一個下だと話していなかっただろうか?
(美織は本当なら俺と同級生だ。だったら、この昼空学は俺の一学年下になるわけで……)
蒼汰の通う高校は学年によってブラウスのネクタイの色が違う。
昼空学はちょうど制服を身に纏っている。彼の纏うネクタイの色を見た時、蒼汰はどうしようもない違和感を覚えた。
(昼空がつけてるネクタイ、俺たちと同じ学年の色じゃないか?)
ザワリ。
蒼汰の全身の血管がざわついた。
何か、何か大事なことを見落としている気がして、仕方がない。
その時、昼空学が断固たる口調で告げた。
「美織、いい加減、現実を見るんだ! あの人は……」
だがしかし、美織が学を遮るように大声で叫んだ。
「学くん、もうそれ以上は良いから! 前も断った通り、私は貴方と付き合うことはないの! だって、私は……私はずっと昔から憧れていた、あの人と、一緒に……!」
思いがけない美織の叫びに、蒼汰はハッとなる。
……美織がずっと昔から憧れていたという男。
その相手に対して敵対意識を持って水泳をしているという学。
学が口惜し気に声を絞り出してくる。
「お前の憧れていたあの男性は、もういないんだよ! そもそも水泳界から姿を消して以来、家に引きこもって、島の誰の前にも姿を現わしてはいなかった。最初からいなかったんだ、そう思えって皆も言っているじゃないか!?」
(昼空学が水泳の個人競技で県内一位?)
末梢の感覚がどんどん失われていく。
夏だというのに寒気が走った。
蒼汰の声が震える。
「なんでだよ」
昨年までは蒼汰がいたはずの場所に、今は美織の幼馴染の学がいるという真実が、蒼汰にとっては、どうしようもなく耐えがたかった。
わなわなと全身が震える。自分では落ち着けることは出来なかった。
その時。
「彼が一番だったから憧れたんじゃない。貴方が一番だから、好きになるわけじゃない」
背後にいる美織の声を耳にして蒼汰はハッとする。
震えているけれども、静かなのに力強い声音だった。
蒼汰は深呼吸を何度か繰り返して自分のことを宥める。
(自分が引退した後に、かつての自分と同じ境遇になる奴がいたって、おかしくはないさ)
そもそも蒼汰は学と同じ大会で戦ったわけでもなんでもない。
同じ人間でも、置かれている立場や状況や環境、全てが違うのだ。
勝手に比較して、今の自分にないものを持った相手に対して嫉妬で身を滅ぼして、本当に大切なものを見失うところだった。
蒼汰は両手で自身の頬を叩くと気合を入れ直した。
そうして、学を見据える。
(そもそも、この昼空学って奴は……)
美織よりも学年が一個下だと話していなかっただろうか?
(美織は本当なら俺と同級生だ。だったら、この昼空学は俺の一学年下になるわけで……)
蒼汰の通う高校は学年によってブラウスのネクタイの色が違う。
昼空学はちょうど制服を身に纏っている。彼の纏うネクタイの色を見た時、蒼汰はどうしようもない違和感を覚えた。
(昼空がつけてるネクタイ、俺たちと同じ学年の色じゃないか?)
ザワリ。
蒼汰の全身の血管がざわついた。
何か、何か大事なことを見落としている気がして、仕方がない。
その時、昼空学が断固たる口調で告げた。
「美織、いい加減、現実を見るんだ! あの人は……」
だがしかし、美織が学を遮るように大声で叫んだ。
「学くん、もうそれ以上は良いから! 前も断った通り、私は貴方と付き合うことはないの! だって、私は……私はずっと昔から憧れていた、あの人と、一緒に……!」
思いがけない美織の叫びに、蒼汰はハッとなる。
……美織がずっと昔から憧れていたという男。
その相手に対して敵対意識を持って水泳をしているという学。
学が口惜し気に声を絞り出してくる。
「お前の憧れていたあの男性は、もういないんだよ! そもそも水泳界から姿を消して以来、家に引きこもって、島の誰の前にも姿を現わしてはいなかった。最初からいなかったんだ、そう思えって皆も言っているじゃないか!?」
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