満天の星の下、消えゆく君と恋をする

おうぎまちこ(あきたこまち)

文字の大きさ
上 下
66 / 122
第4章 夏の終わり、消えゆく君が別れを告げる

18-2

しおりを挟む
 蒼汰の鼓動が激しく脈打つと同時に、一気に血の気が一斉に引いていく。

(昼空学が水泳の個人競技で県内一位?)

 末梢の感覚がどんどん失われていく。
 夏だというのに寒気が走った。
 蒼汰の声が震える。

「なんでだよ」

 昨年までは蒼汰がいたはずの場所に、今は美織の幼馴染の学がいるという真実が、蒼汰にとっては、どうしようもなく耐えがたかった。
 わなわなと全身が震える。自分では落ち着けることは出来なかった。
 その時。


「彼が一番だったから憧れたんじゃない。貴方が一番だから、好きになるわけじゃない」


 背後にいる美織の声を耳にして蒼汰はハッとする。
 震えているけれども、静かなのに力強い声音だった。
 蒼汰は深呼吸を何度か繰り返して自分のことを宥める。

(自分が引退した後に、かつての自分と同じ境遇になる奴がいたって、おかしくはないさ)

 そもそも蒼汰は学と同じ大会で戦ったわけでもなんでもない。
 同じ人間でも、置かれている立場や状況や環境、全てが違うのだ。
 勝手に比較して、今の自分にないものを持った相手に対して嫉妬で身を滅ぼして、本当に大切なものを見失うところだった。
 蒼汰は両手で自身の頬を叩くと気合を入れ直した。
 そうして、学を見据える。

(そもそも、この昼空学って奴は……)

 美織よりも学年が一個下だと話していなかっただろうか?

(美織は本当なら俺と同級生だ。だったら、この昼空学は俺の一学年下になるわけで……)

 蒼汰の通う高校は学年によってブラウスのネクタイの色が違う。
 昼空学はちょうど制服を身に纏っている。彼の纏うネクタイの色を見た時、蒼汰はどうしようもない違和感を覚えた。

(昼空がつけてるネクタイ、俺たちと同じ学年の色じゃないか?)

 ザワリ。
 蒼汰の全身の血管がざわついた。
 何か、何か大事なことを見落としている気がして、仕方がない。
 その時、昼空学が断固たる口調で告げた。

「美織、いい加減、現実を見るんだ! あの人は……」

 だがしかし、美織が学を遮るように大声で叫んだ。

「学くん、もうそれ以上は良いから! 前も断った通り、私は貴方と付き合うことはないの! だって、私は……私はずっと昔から憧れていた、あの人と、一緒に……!」

 思いがけない美織の叫びに、蒼汰はハッとなる。
 ……美織がずっと昔から憧れていたという男。
 その相手に対して敵対意識を持って水泳をしているという学。
 学が口惜し気に声を絞り出してくる。

「お前の憧れていたあの男性は、もういないんだよ! そもそも水泳界から姿を消して以来、家に引きこもって、島の誰の前にも姿を現わしてはいなかった。最初からいなかったんだ、そう思えって皆も言っているじゃないか!?」

しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

おてんばプロレスの女神たち ~男子で、女子大生で、女子プロレスラーのジュリーという生き方~

ちひろ
青春
 おてんば女子大学初の“男子の女子大生”ジュリー。憧れの大学生活では想定外のジレンマを抱えながらも、涼子先輩が立ち上げた女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスで開花し、地元のプロレスファン(特にオッさん連中!)をとりこに。青春派プロレスノベル「おてんばプロレスの女神たち」のアナザーストーリー。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...