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第3章 夏祭りの夜、輝く君とキスをする

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 だがしかし、彼女は猫のようにしなやかに蒼汰の手をスルーしたかと思いきや、神社の裏手にある大木の下に向かうと、浴衣が土に汚れるのにも構わずしゃがみ込んだ。挙句の果てに地面を掘り起こそうとしている。

「どうしたんだよ、いったい」

 蒼汰が呆れたようにぼやくが、美織は無視して土を弄っている。

「う~ん、おかしいな? ここに埋めたはずだったんだけど……」

「何をだよ?」

 蒼汰のことを見上げた美織が目を爛々と輝かせながら告げる。

「流れ星の欠片だよ?」

 美織からは当然だと言わんばかりの口調で言われてしまい、蒼汰は口を噤んだ。
 しばらく一心不乱に土を掘っていた美織だったが、残念ながら目的のものには辿り着けなかったようだ。

「そうだね、もう五年近い前のことだし、残ってないよね」

 少しだけしんみりした様子の彼女の背に向かって、彼は問いかける。

「そういやあ、ここは良い場所だってお前に教えた奴がいるって言ってたな」

 すると美織が淡く微笑んだ。
 ちょうど月が雲から顔を覗かせた。少しだけ冷たくなってきた風がそよそよと木々の葉を揺らした。
 月光が彼女の白い顔と艶やかな黒髪を輝かせる。

「そうだよ、友達のお兄ちゃんに教えてもらったんだ」

 彼女の漆黒の瞳が真っすぐに彼を射抜いてくる。
 蒼汰は美織から目を離すことが出来なくなった。

(友達のお兄ちゃん)

 てっきり昼空学とかいう幼馴染が美織にこの場所を教えたと思っていたけれど、どうやら違ったようだ。
 彼女の話す「友だちのお兄ちゃん」に対しては、蒼汰はどうしてだか妙な対抗心が湧いてはこなかった。

「あとは願掛けでね、五年前に埋めたの、彼から貰った大事な宝物を」

 蒼汰の心臓が忙しなく音を立てた。
 そうして、美織がふっと微笑んだ。

「埋めていたはずなのに失くなっているのはさ、私の願いが叶ったからかもしれないね」

 月の光の下で見る美織はやけに神々しくて美しかった。
 蒼汰は知らぬ間に掌に汗をかいていた。拳をぎゅっと握りしめて、彼女に手を差し伸べようとしたけれど……

「いっけない、確か最終バスって九時半だったよね!? このままだと乗り遅れちゃう!」

 美織は大声を上げると、蒼汰の脇をすり抜けた。
 またしても、彼女に差し伸べた彼の手が空を切る。

「……」

 蒼汰がむっつりとした表情を浮かべていたら……

「ほら、君、何してるのさ、行くよ! ほらほら急いで!」

 美織が彼の手をすかさず手にとり駆けだした。

「おい、お前、強引だな!」

「だってだって遅れちゃうんだもん!」

 美織に手を引かれながら、蒼汰はなんだか嫌な気はしなかったのだった。


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