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第3章 夏祭りの夜、輝く君とキスをする

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「君、どうしたの?」

 美織が不思議そうにこちらの顔を覗いてきた。
 鼻先が触れそうなほどに至近距離だ。そんな近くになるまで彼女が接近していることに気付かなかったなんて。
 蒼汰は思わず顔を仰け反らせる。さっと頬が朱に染まるのが自分でも分かった。

「近いっての……」

「ええ、もしかして君、恥ずかしいの、身体はこんなに大きいのに、可愛いなあ」

「うるせえ、腹を指で突いてくるな」

「ふふふ……じゃあ、さっそく神社の中を回ろうよ」

 すると、彼女が巾着を持っていない方の手を差し出してきた。
 そっと小さな掌に手を重ねる。
 少しだけ冷たい手が、蒼汰の火照った身体には気持ちが良かった。

「こっちだよ」

 まるで手を繋ぐのが当たり前になってきている。
 彼女に手を引かれて人ごみの中を歩いている内に、先ほどの出来事はどんどん薄れていった。

「お腹が空いたから、まずは屋台だよ」

 強い力で引っ張ってくる美織がはしゃいでいるのが、指先からも伝わってくるようだ。
 それにしたって……
 久しぶりにこんなに人が大勢いる場所に顔を出した。
 周囲の人々の視線がどことなく怖い。
 見られておかしな噂を立てられてやしないか不安で、心臓の音はなかなか元の回数には戻ってはくれなかった。

(落ち着け、自意識過剰になりすぎだ)

 スタート台からプールに向かって飛び込む際に、数多くの人たちから見られていた時は、期待と羨望に満ち満ちたものだったから怖くなかったのだ。
 今は、もしかすると誹謗中傷や悪意のようなものに晒されるのではないかと心配になってしまい、身が竦むようだった。
 気持ちを落ち着かせようと何度か深呼吸をしていると、次第に平常心に戻ってきていた。
 先を歩く美織の背を見ていると、どんどん心の荒波は凪いでいく。

「せっかく美織と一緒なんだ。楽しまなきゃ損だよな」
 
 そう、美織と夏祭りに来るのは今年で最後かもしれない。
 彼女にとって最後になるだろう夏祭りの同伴者に選んでもらえたのは蒼汰なのだ。
 胸の中に妙な誇りのようなものが沸いてくる。
 人ごみの中を歩いていると、小さな少年少女が走り回って、どんとこちらにぶつかってきた。

「お兄ちゃん、ごめんな!」

「ごめんなさい!」

 どうやら兄妹のようだった。
 
 蒼汰の脳裏に小さい頃の記憶が蘇ってくる。

『お兄ちゃん、どこにいるの?』

『ほのか、ここだ、探したぞ』

(俺の妹のほのかも小学校の友達と遊びに来てるんだろうか……?)

 もしかしたら、今頃の実妹ほのかが、この人垣の中にいるかもしれない。
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