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第3章 夏祭りの夜、輝く君とキスをする

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「君、どこ行くの!?」

 切望していた声音が蒼汰の耳に届いた。

「何やってるの?」

(脅かすなよ……)

 ひょっこりと美織が姿を現わしたため、蒼汰はほっと胸を撫でおろした。

「お前、ちゃんと約束の時間に来いよ、心配しただろうが……!」

 その時、現れた彼女の方へと振り向いて、蒼汰は文字通り絶句した。

「な……」

 美織の姿。
 いつも流している長髪は綺麗に結い上げられており、華奢で白いうなじが目に付く。後れ毛が出ているのも、どことなく色香を感じさせた。
 紫色の妖艶な浴衣姿にも関わらず、清楚な雰囲気を漂わせていた。
 帯には愛らしいレースの飾りが顔を覗かせており、彼女のチャーミングさを現わしているようでもある。
 手持ちには愛らしい紅い色の巾着があり、そこに若葉色の根付とうさぎの愛らしいチャームがついていた。
 さらに下方へと視線を移すと、着物の裾の下、すっと細い足首が露わになっているではないか。
 蒼汰は妙に心臓がドキドキしてしまった。

(俺はいったいどこを見てるんだ)

 とはいえ、年頃の男子なので仕方がない。そんな風に自分に言い訳をすることにする。

「ねえ君、もしかして、私が可愛くて見惚れちゃった?」

 美織は、してやったりな猫のような表情を浮かべながら、蒼汰を見上げてすり寄ってくる。

「そ、そんなわけないだろ!」

 彼が後じさりしながら抗議するが、彼女はぐいぐいと距離を詰めてきていた。
 出かける前に風呂に入ったのだろうか、今日はいつも以上に石鹸の良い香りが、彼女の黒髪から漂ってくる。
 蒼汰の頭の芯がぼうっとなっていくようだ。

「ふふ、私に見惚れてないっていうことにしておくね。さあ、行こうか」

「ああ。そうだな」

 見惚れていたことには気づかれないように、素知らぬふりをしながら、前へ一歩進もうとしたところ――

「美織、病室を抜け出して、こんなところにいたのか」

 突然、凛とした声音が耳に届く。

「……っ……」

 前を進む美織が身体を強張らせると足を止めた。
 彼女の名を呼んだ声の主のいる方へと振り向く。

「ちゃんと病院に戻るんだ、美織」

 色素の薄い髪がサラサラとたなびく。猫のようなキリリとした茶色い瞳。
 女性が好みそうな顔立ちをした芸能人のような雰囲気を漂わせた美少年。
 蒼汰と美織と同じ高校の制服を纏う彼が、美織のことをまっすぐに見ていたのだった。

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