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第2章 月の引力で君と惹かれ合う
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けれども、口を開いたのは美織だった。
彼女の言葉を耳にして蒼汰はハッとなる。
膝を抱えていた彼女の表情を見ようとしたが、ちょうど顔を埋めたので見えなくなった。流麗な黒髪がさらりと揺れる。
(美織も迷っているんだろうか?)
星になりたいと言いつつも……きっとまだ彼女の胸の内には様々な葛藤があるに違いない。
だって、近づいている死をすんなりと受け入れることなんて、誰にだってできるわけじゃないし、きっと死ぬ最後まで死にたくないと思っている人の方が大半だろうから。
ちょうど、その時、夜空を見上げた彼女が声を上げる。
「あ!」
また流れ星が過った。
続けざまに次の流星が輝く。
蒼汰は大きな声を上げた。
「美織の病気が治りますように!」
「え?」
美織がきょとんとしている。
余命がもうなくて、厳しい状況なのは分かっている。
けれど、何かに縋りたい気持ちでいっぱいだった。
「俺はお前に生きててもらいたい」
美織は蒼汰をちらりと見ると、瞳を揺らめかせた後、唇をきゅっと噛み締める。じわりと瞳に涙が滲み、目頭が赤くなっていく。彼女は一度瞼を閉じると、また夜空を見上げた。
また流れ星がキラリと閃く。
深呼吸をした美織が一息に叫んだ。
「君の怪我が完治して、また泳げるようになって、未練がなくなりますように!」
水平線に星が消えていくのを見届ける。
蒼汰が呆れたように美織に伝えた。
「お前、すぐ俺に未練とか言ってくるな、そんなに女々しそうに見えるのかよ?」
「え? うん、そうだけど……?」
「まったく、敵わないな」
バツが悪そうに微笑んだ蒼汰だったが、彼女が自分のことを願ってくれたのが胸に染み入るようだった。
その時、そっと掌の上に何かが重なる。
視線を動かすと、美織が自分の手に手を重ねてきていたようだった。
「お互いの願いが叶うと良いね」
ふわりと彼女が微笑む。
昨晩雷が怖いと話す彼女を抱きしめていた時とは違って、今度は彼女の方から積極的に触れ合ってこられたのだ。
年頃の男子高校生らしく、美少女にそんな行動をされたら落ち着かない。
いいや、美少女が相手だからなんかじゃない。
……美織だから。
相手に気取られぬように何度も深呼吸を繰り返した。
「ああ、そうだな」
はにかむ彼女からは幸福感が溢れてくるようで、彼の心まで充たされるようだった。
再び流星が空を翔るのを眺めていると、美織が蒼汰に願いを告げてくる。
「あのね、君にお願いがあるんだ」
「お願いって何だよ?」
すると、彼女が満面の笑みを浮かべた。
「今度ある夏祭り、一緒に行きたいんだけど、どうかな?」
彼女の突然の思い付きのようなお願いにはだいぶ慣れてきた。
蒼汰はふっと口元を綻ばせる。
「いいぜ」
彼は彼女の華奢な手をそっと握り返したのだった。
彼女の言葉を耳にして蒼汰はハッとなる。
膝を抱えていた彼女の表情を見ようとしたが、ちょうど顔を埋めたので見えなくなった。流麗な黒髪がさらりと揺れる。
(美織も迷っているんだろうか?)
星になりたいと言いつつも……きっとまだ彼女の胸の内には様々な葛藤があるに違いない。
だって、近づいている死をすんなりと受け入れることなんて、誰にだってできるわけじゃないし、きっと死ぬ最後まで死にたくないと思っている人の方が大半だろうから。
ちょうど、その時、夜空を見上げた彼女が声を上げる。
「あ!」
また流れ星が過った。
続けざまに次の流星が輝く。
蒼汰は大きな声を上げた。
「美織の病気が治りますように!」
「え?」
美織がきょとんとしている。
余命がもうなくて、厳しい状況なのは分かっている。
けれど、何かに縋りたい気持ちでいっぱいだった。
「俺はお前に生きててもらいたい」
美織は蒼汰をちらりと見ると、瞳を揺らめかせた後、唇をきゅっと噛み締める。じわりと瞳に涙が滲み、目頭が赤くなっていく。彼女は一度瞼を閉じると、また夜空を見上げた。
また流れ星がキラリと閃く。
深呼吸をした美織が一息に叫んだ。
「君の怪我が完治して、また泳げるようになって、未練がなくなりますように!」
水平線に星が消えていくのを見届ける。
蒼汰が呆れたように美織に伝えた。
「お前、すぐ俺に未練とか言ってくるな、そんなに女々しそうに見えるのかよ?」
「え? うん、そうだけど……?」
「まったく、敵わないな」
バツが悪そうに微笑んだ蒼汰だったが、彼女が自分のことを願ってくれたのが胸に染み入るようだった。
その時、そっと掌の上に何かが重なる。
視線を動かすと、美織が自分の手に手を重ねてきていたようだった。
「お互いの願いが叶うと良いね」
ふわりと彼女が微笑む。
昨晩雷が怖いと話す彼女を抱きしめていた時とは違って、今度は彼女の方から積極的に触れ合ってこられたのだ。
年頃の男子高校生らしく、美少女にそんな行動をされたら落ち着かない。
いいや、美少女が相手だからなんかじゃない。
……美織だから。
相手に気取られぬように何度も深呼吸を繰り返した。
「ああ、そうだな」
はにかむ彼女からは幸福感が溢れてくるようで、彼の心まで充たされるようだった。
再び流星が空を翔るのを眺めていると、美織が蒼汰に願いを告げてくる。
「あのね、君にお願いがあるんだ」
「お願いって何だよ?」
すると、彼女が満面の笑みを浮かべた。
「今度ある夏祭り、一緒に行きたいんだけど、どうかな?」
彼女の突然の思い付きのようなお願いにはだいぶ慣れてきた。
蒼汰はふっと口元を綻ばせる。
「いいぜ」
彼は彼女の華奢な手をそっと握り返したのだった。
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