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第2章 月の引力で君と惹かれ合う
11-2
しおりを挟むすると、煌々とした光を目に宿したまま、彼女は続ける。
「私たちが見ている星はさ、実はもう何百年も前に消えてしまっているかもしれないでしょう? だけどさ、消滅してしまっても、綺麗な光を私たちに届けてくれる。消えても尚輝きを誰かに届けることができる。そんな存在になりたいなって思ったの」
消えても尚輝きを誰かに届けることができる、星のような存在。
「たくさんの人たちじゃなくて良いんだ。私の大事な人たちにとって、そんな存在になれたら、すごく幸せなことだなって思ったんだ」
自分の大事な人にとっての輝ける星。
綺麗な表現だと、蒼汰は漠然と思った。
そうして、美織が彼を見上げる。
「大事な人たちの星になるために、私には克服しないといけないことがあったの」
「克服しないといけないこと?」
「うん、私は海が怖くて、しばらく来れなかったって、言っていたでしょう?」
「そういやあ、そんなことを言っていたな」
美織の瞳に映る光が、少しだけ揺れ動いた。
「私ね、ずっとずっと後悔していたことがあったの。海にまつわることで。そうしたら、君に会えた。死ぬ直前の私のために、神様が奇跡を与えてくれたんだって、そう思ったんだ」
彼女の強い眼差しを受けて、蒼汰は息を呑んだ。
以前から気になる発言を彼女は繰り返していた。
思い切って尋ねてみることにする。
「お前は、ずっと俺のことを知っているみたいだったな。もしかして、昔どこかで会ってたり、するのか?」
すると、美織の瞳から一粒の涙が零れて、風が攫っていった。
「うん、君は私のことを知らないと思う。だけど、小さい頃から、貴方はずっと私にとってのヒーローなんだよ。それは君がもう泳げなくなったんだとしても変わらない。そうだね、私のなりたい星みたいな存在、それが君なんだ」
蒼汰の瞳が見開かれた後、まるで水面のように揺れ動いた。
……美織にとってのヒーロー。
たとえ泳げなかったとしても……
彼女にとっての輝ける星。
「俺がお前にとっての……星」
目元と頬を朱に染めた美織がコクリと頷いた。
ちょうど、その時――視界の端で何かが閃く。
「あ!」
隣に座っていた美織が、突然空を見上げて声を上げる。
つられて蒼汰も夜空を薄ぼんやりした空を眺めた。
目の前を星が横切る。
「流れ星」
「流れ星」
二人して声を上げた。
まだ仄かに明るい夜空から海に向かって、流れ星が姿を落ちていった。
そうして、続けて何個かの星が流れていく。
「今日は流星群が観れる日だったのか?」
蒼汰がぼやいた。
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