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第2章 月の引力で君と惹かれ合う

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 美織が目をパチパチさせると、やはりおかしなことを言い始める。

「ふふ、そうかもね。だけどさ、やっぱり奇跡ってこの世にあるんだなって」

 少しだけ目じりと鼻先を赤くしながら美織が笑い掛けてきた。

(なんで泣きそうになってるんだよ、こいつは?)
 
 美少女なのにどこか不思議で掴みどころのない発言を繰り返してくる。
 蒼汰は彼女と一緒にいると気恥ずかしくて堪らない。

「ああ、なんだ……」

 美織には、闘病生活ゆえに幻想に浸る癖のようなものがあるのかもしれない。
 それぐらい漠然とした発言が多いのだ。

「私ね」

 ぽつりぽつりと口を開く。
 彼女は指先で砂の上に文字を残す。
 何を書いているのかは分からない。
 そうして、顔を上げると穏やかに打ち寄せる波を見ながら告げた。

「夏の終わりには、儚くなるんだ」

 美織の言葉の真意が分からない。
 すっくとその場に立つと……
 おもむろにミュールを脱いだ彼女が素足になって、波へとゆっくりと歩む。
 月光の下、黒髪をなびかせる彼女の姿は、そのまま海に吸い込まれそうに儚いものだった。

「あ、行かなきゃ! ごめんね、今日は短くて! 明日も会いに来るからね」

 それだけ言うと、美織は洞窟の方へと駆けていく。

「待てよ! お前は結局どこで俺のことを知ったんだよ!?」

 蒼汰の声掛けも虚しく、彼女はまるで幽霊のように姿を消した。

「まさか、あの夜海美織、本当に幽霊とかじゃないだろうな?」

 夏だとありがちな怪談話だ。

「いいや、普通に俺が触れたわけだし、そんなわけあるわけないな。あいつのアホみたいな妄想が俺にも移ったのかな。さて、帰るか」

 そうして、天体観測用の望遠鏡を担いで砂浜を歩く。
 蒼汰は呆れたような溜息をつきつつも、ふっと頬を綻ばせる。
 水泳が出来なくなってから久しぶりに笑みが零れたことに蒼汰自身が気づいていなかったのだった。


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