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第2章 月の引力で君と惹かれ合う
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しおりを挟む図書館からの帰り道。
蒼汰は、提灯やコードなどを運ぶ大人たちの姿を見つける。
(そろそろ祭りか)
毎年この島ではお盆が近くなると夏祭りが開催される。
鬼に扮した大人の前を、小鬼に扮した子どもたちが踊りながら、島の商店街を歩いて回るというものだ。島の伝統行事でもあり、子どもの頃に無理やり踊らされた記憶がある。一緒に練習した恭平たちは、仮装行列のようではしゃいでいたが、蒼汰はあまり気乗りしなかった。
彼らの横をすり抜けてから帰る。
近所の大人たちも、蒼汰が子どもの頃にはよく挨拶をしろと話してきたものだが、高校生の自分に対して声をかけてくることもなかった。
家に一度立ち寄った後、望遠鏡の準備をして、浜辺へと向かう。
もうすっかりルーチンワークになってしまって、無意識に足が進む。
蒼汰は、陽の沈む海を眺めながら、ぼんやりと考える。
(夏祭りねえ)
小さい頃に、妹のほのかを連れて夏祭りに出掛けたことがある。父親は島の公営病院の当直だったから、兄妹二人で出かけることになった。ほのかがどうしてもピンクの浴衣を着たいと言って引かないものだから、蒼汰が慣れない手つきで一生懸命帯を結んであげて、雑誌の見よう見まねで髪を結ってから、神社へと出向いた。
最初は手を繋いで歩いていたのだが、些細なことで喧嘩になって、ほのかはどこかに行ってしまった。ものすごい人ごみで探しても見つからない。不安に駆られていると、ほのかの手を引きながら黒髪の少女が現れた。
『ほのかちゃん、ここにいます』
えんえんと泣きわめくほのかを連れてきた彼女に御礼を言おうと思った時には、もう姿を消してしまっていた。
(あの女の子、そう言われれば……)
美織に似ている気がしたが気のせいだろうか。
そもそも年代に食い違いがある。
だって、ほのかはまだ小学生であり、美織は高校生なのだから。
美織は一人っ子だけど、もしかすると親戚がいてもおかしくはない。
その時、さっと影が差す。
「ねえねえ、毎晩ここに来て退屈じゃないの?」
いつもよりも少しだけ早い時間だが、美織が姿を現わしたのだった。
「今日は早いな」
「ええ、早く来てみたの」
微笑みかけられると動悸がしてくる。
今が夕暮れ時で本当に良かったと心の中で安堵した。
けれども、同時に日中インターネットで彼女のかかっている疾患について調べていたことを思いだして胸が苦しくなってくる。
「なんで早く来たんだよ?」
「え? なんとなく早く君に会いたかったからさ」
そう言って、彼女は自分の隣に膝を抱えて座りこんできた。
蒼汰はどうしようもなく気になって、美織に問いかける。
「なあ、お前さ……」
「ん? どうしたの?」
夕暮れ時、潮騒を聴きながら、太陽が水平線に沈む様子を二人で黙って眺めた。
もう予後は長くない美織。
もうこの光景を一緒に何度も見ることはできないかもしれない。
「いいや、なんでもない」
本当は彼女に対して、医師から余命はどのぐらいと聞いているのか訊ねたかった。
けれども、あまりにもセンシティブな内容で、踏み込んで良い内容かどうかが分からなかったのだ。
すると、美織が黒髪をかき上げながら続けた。
「私さ、夏の間に儚くなるって言ってるでしょう?」
蒼汰の考えていることが分かっているかのような口ぶりだ。
そうして……
「主治医の先生からはね、去年の夏頃に、このままだと余命一年だって言われてるの」
美織からの思いがけない返事に、蒼汰は言葉に詰まったのだった。
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