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第2章 月の引力で君と惹かれ合う

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「あ、君、やっぱりここにいてくれたんだね!」

 なんと砂浜に美織が姿を現わしたのだ。

「お前、なんで来たんだよ?」

 蒼汰は悪態をつきつつも、心の中で歓喜している自分に気付いてしまう。
 白いワンピースの裾を翻しながら、彼女は彼のいる方へと駆けてきた。

「君が来てるかもって思ったんだよ。やっぱり来てくれてたんだね。こっちに向かって良かった」

 美織が心底嬉しそうに微笑んでくる。
 蒼汰の期待による思い込みかもしれないが、美織も自分に会うと嬉しそうだと漠然と思った。
 なんだか胸の中がむずがゆくなる。
 蒼汰は意を決して伝える。

「お前に……会えて良かった」

「え? 何々、急にどうしたの? 素直な君はなんだか怖いよ」

「怖いってなんだよ」

「だってだって、怖いんだもん!」

 そんな風に文句を言ってくる美織だったが、頬が朱に染まっていて、愛くるしい印象が増していた。

「俺だってたまには素直に発言するさ。まあとにかく今日は解散だ。ほら、お前、いつもどこかにすぐ消えるけど、今日は道路のところまで送るから」

「えへへ、ありがとう」

 そうして、蒼汰は美織に背を向けると、先を歩きはじめた。
 その時――

「あ……」

 背後からか細い声が聞こえてきたため、ハッと彼は後ろを振り向いた。

「美織……?」

 美織の身体が傾ぐ。

「どうした……!?」

 彼女は背中を丸めたまま、その場に頽れた。

「美織……!」

 蒼汰も咄嗟にしゃがみこむ。
 美織の視線は像を結ばずぼんやりしていて、全身から力が抜けてしまっているようだった。

(今まで勝手に美織は元気だと思い込んでいた自分が馬鹿だった)

 バカみたいに明るいから、気付いていなかった。
 蒼汰は激しい後悔に襲われる。

「くそっ、どうしたら……」

 水泳でケガをする場面というのはほとんどなかったが、それでも熱中症や軽い怪我なんかはある。だからこそ、初期対応のようなものは習ってきたが、明らかにそれらとは違う症状で、どう対応して良いのか分からなくなってしまった。
 焦っていると、息も絶え絶えになりながら、美織が話しはじめた。

「大丈夫、しばらくしたら、身体、また動くようになる……から……」

 そうは言われても、美織の顔色があまりにも白くて、本当に元に戻るのかと不安になってくる。彼女の肩に置いた指先に勝手に力がこもってしまい、彼女の柔肌を傷付けないか心配なぐらいだ。
 そんな中、ぽつぽつと降っていた雨足が強くなる。

「美織、俺が担いでも大丈夫か?」

「……うん」

 そうして、彼女を横抱きにすると、さっと立ち上がる。抱えた彼女の身体は、まるで幼児のように軽かった。
 その重さは彼女が病に侵されていることの証明のようで……
 蒼汰は頭を振ると、周辺へと視線を配る。

「まずいな、雨がひどくなってきてる。どこかに移動しよう」

 けれども、残念なことに近くに隠れるための高いものは何もない。
 砂浜から防波堤の階段を登って道路に出る。海岸線の向こう、向日葵畑を挟んだ向こう側に、家の灯りがポツポツ見えた。
 すると、そこよりもっと山手の方を美織が指を差した。

「あっち、家があるから、あの青い家」

「お前の?」

「うん」

 彼女の指さした先にある家に向かって、彼は急ぎ足で進んだのだった。


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