31 / 122
第2章 月の引力で君と惹かれ合う
8-4
しおりを挟む
蒼汰は勢いよく海の中へと足を突っ込んだ。
ざぶざぶと腰のあたりまで水の中に浸かる。久しぶりの感覚だった。
そうして、泳がずとも平気な距離で帽子を手に取った。
「ちゃんと拾ったぞ!」
彼は大声を上げつつ片手を振って知らせると、美織の表情が明るいものへと変わった。
再び砂の上に足をつけると物足りなさを感じてしまう。
「ほら」
「ありがとう……だけど……!」
突然、美織がハラハラと涙を流し始めてしまい、蒼汰はぎょっとしてしまう。
「どうしたんだよ……!?」
「だって、だって……」
それ以上は言葉にならないようだった。咽び泣く彼女の姿を見て、蒼汰の胸の内にどうしようもなく愛おしさが込み上げてきてしまう。
「そんなに遠い距離じゃなかっただろう? 泣くなよな」
完全に無意識だった。
気付いた時には――
彼は彼女のことを抱き寄せていた。
彼の濡れた両腕が彼女のワンピースを濡らす。
静かな浜辺に優しいさざ波の音色が聴こえる。
しばらく抱きしめ合っていた二人だったが――
「キャンキャン!」
「シロや、夜は見えづらいから、ゆっくり歩いておくれ」
ちょうど向こうから犬の鳴き声と飼い主と思しき老人の声が聴こえた。
はっとなって二人して身体をパッと話す。
「悪い」
「いいえ、私の方こそ急に泣いてごめんなさい」
謝る美織に対して、蒼汰がぶっきらぼうに返す。
「いいや、仕方がないだろう。俺が急に飛び込んだのが悪かったんだから」
そうして、美織が鼻を啜りながらにっこりと微笑んだ。
「ううん、だけど、生きててくれて良かった」
心底嬉しそうに微笑む美織の笑顔を見て、蒼汰の胸の内に動揺が走る。
「いいや、別に」
どうしてそんな答えしかできないんだろう。
彼は自分の愚かさを恥じてしまう。
けれども、それさえも見透かしているかのように、美織が笑顔を浮かべた。
「大丈夫」
ふと、蒼汰は湧いてきた疑問を尋ねる。
「そういえば、お前はさ、身体があんまり丈夫じゃないんだよな」
「え、うん、そう」
「ぱっと見全然どこが悪いのかが分からない。こう儚くはないよな」
「儚くないとか失礼なんだから!」
蒼汰をポカポカと叩きながら猛抗議してきていた美織だったが、ふっと伏し目がちになる。
「だけど、確かに私も月になりたいな」
「なんでだよ?」
すると、彼女は少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「月ってさ、綺麗なところしか見せないでしょう? 地球からは表側しか見えないじゃない」
「ああ、そうだな」
その時、そっと美織が蒼汰の肩に頭をコツンと乗せてきた。
ドクン。
蒼汰の心臓が跳ね上がった。
「好きな人には綺麗なところだけを見せて、儚くなりたいなって……思ってるんだ、ずっと、ずっとね」
彼はそんな彼女の肩をそっと抱き寄せたのだった。
ざぶざぶと腰のあたりまで水の中に浸かる。久しぶりの感覚だった。
そうして、泳がずとも平気な距離で帽子を手に取った。
「ちゃんと拾ったぞ!」
彼は大声を上げつつ片手を振って知らせると、美織の表情が明るいものへと変わった。
再び砂の上に足をつけると物足りなさを感じてしまう。
「ほら」
「ありがとう……だけど……!」
突然、美織がハラハラと涙を流し始めてしまい、蒼汰はぎょっとしてしまう。
「どうしたんだよ……!?」
「だって、だって……」
それ以上は言葉にならないようだった。咽び泣く彼女の姿を見て、蒼汰の胸の内にどうしようもなく愛おしさが込み上げてきてしまう。
「そんなに遠い距離じゃなかっただろう? 泣くなよな」
完全に無意識だった。
気付いた時には――
彼は彼女のことを抱き寄せていた。
彼の濡れた両腕が彼女のワンピースを濡らす。
静かな浜辺に優しいさざ波の音色が聴こえる。
しばらく抱きしめ合っていた二人だったが――
「キャンキャン!」
「シロや、夜は見えづらいから、ゆっくり歩いておくれ」
ちょうど向こうから犬の鳴き声と飼い主と思しき老人の声が聴こえた。
はっとなって二人して身体をパッと話す。
「悪い」
「いいえ、私の方こそ急に泣いてごめんなさい」
謝る美織に対して、蒼汰がぶっきらぼうに返す。
「いいや、仕方がないだろう。俺が急に飛び込んだのが悪かったんだから」
そうして、美織が鼻を啜りながらにっこりと微笑んだ。
「ううん、だけど、生きててくれて良かった」
心底嬉しそうに微笑む美織の笑顔を見て、蒼汰の胸の内に動揺が走る。
「いいや、別に」
どうしてそんな答えしかできないんだろう。
彼は自分の愚かさを恥じてしまう。
けれども、それさえも見透かしているかのように、美織が笑顔を浮かべた。
「大丈夫」
ふと、蒼汰は湧いてきた疑問を尋ねる。
「そういえば、お前はさ、身体があんまり丈夫じゃないんだよな」
「え、うん、そう」
「ぱっと見全然どこが悪いのかが分からない。こう儚くはないよな」
「儚くないとか失礼なんだから!」
蒼汰をポカポカと叩きながら猛抗議してきていた美織だったが、ふっと伏し目がちになる。
「だけど、確かに私も月になりたいな」
「なんでだよ?」
すると、彼女は少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「月ってさ、綺麗なところしか見せないでしょう? 地球からは表側しか見えないじゃない」
「ああ、そうだな」
その時、そっと美織が蒼汰の肩に頭をコツンと乗せてきた。
ドクン。
蒼汰の心臓が跳ね上がった。
「好きな人には綺麗なところだけを見せて、儚くなりたいなって……思ってるんだ、ずっと、ずっとね」
彼はそんな彼女の肩をそっと抱き寄せたのだった。
22
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
学園制圧
月白由紀人
青春
高校生の高月優也《たかつきゆうや》は、幼馴染で想い人の山名明莉《やまなあかり》とのごくありふれた学園生活を送っていた。だがある日、明莉を含む一党が学園を武力で占拠してしまう。そして生徒を人質にして、政府に仲間の『ナイトメア』たちを解放しろと要求したのだ。政府に対して反抗の狼煙を上げた明莉なのだが、ひょんな成り行きで優也はその明莉と行動を共にすることになる。これは、そんな明莉と優也の交流と恋を描いた、クライムサスペンスの皮をまとったジュブナイルファンタジー。1話で作風はつかめると思います。毎日更新予定!よろしければ、読んでみてください!!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる