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第2章 月の引力で君と惹かれ合う
8-1 美織と月と海
しおりを挟む美織と出会って約一週間が経とうとしている。
あれから空はずっと快晴続きで、毎日彼女は蒼汰の元へと現れた。
『お待たせ、さっそく今日は天体望遠鏡の使い方の説明だよ』
そういうと、彼女は蒼汰に望遠鏡の基本的な使い方を教えてくれた。
『君が持ってるのは、まずケプラー式という種類でね』
『そういやあ、この間は、なんとか式、なんとか式とか、望遠鏡について色々言ってたな』
『そうだよ、ケプラー式とガリレオ式が定番で、反射式っていうのもあるんだよ。ケプラー式っていうのは、対物レンズ凸レンズで……』
『そういう細かいのはどうでも良いからさ、さっさと星の観方を教えてくれよ』
正直、天体望遠鏡のあれこれはどうでも良いから、早く月や星を眺めたい。
蒼汰が話の腰を折ると、美織は顔をまるで般若のように歪めながら怒りはじめた。
『君、それは甘い考えだよ!!』
『は?』
彼女からびしっと指を突きつけられて、彼は面食らってしまう。
『甘いってなんだよ?』
美織は蒼汰に詰め寄ると、続きを話しはじめた。
『天体望遠鏡は星々を観察するための必須道具だよ。球技をする人たちだって、ボールを大事にするだろうし、剣道や弓道や茶道をする人たちだって、道具は大事にするでしょう? 音楽を演奏する人は楽器を大事にするだろうし、身体で出来るスポーツなら、本人のウォーミングアップが必要で……だから、天体望遠鏡の使い方は大事なんだから!』
ものすごい剣幕で説明され、蒼汰はそれもそうだと押し黙った。
『言いたいことは分かった。基礎をおろそかにするなってことだな』
『そうだよ、さすが飲み込みが早い!』
美織にキラキラした瞳を向けられると悪い気はしなかった。
実際、三脚の固定の方法や、レンズの焦点を合わせたりといった、一見すると単純そうに見える作業も、しっかり理解してやろうと思えば時間がかかる作業だった。この五日間ぐらいは、そんな基礎固めで終了した。
連日、新しいことを覚えて興奮していたのか、なかなか寝付けず、部屋の中から時折空を望遠鏡で覗いては、移ろう星々の動きを堪能して過ごしたのだった。
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