満天の星の下、消えゆく君と恋をする

おうぎまちこ(あきたこまち)

文字の大きさ
上 下
26 / 122
第2章 月の引力で君と惹かれ合う

7-3

しおりを挟む

 美織が夜という苗字とはまるで反対の――太陽のように、ぱあっと明るい表情を浮かべた。饒舌になった彼女が続ける。

「実は子どもの頃から、憧れの水泳選手がいたんだけどね。その人に君がよく似てたから、最初は本人かもって誤解してたの」

「へえ」

 憧れの水泳選手。
 今の言い回しだと、どうやら美織の憧れの相手は自分ではなかったようだ。

(この島で自分以外に水泳選手といえば恭平か?)

 とはいえ、蒼汰とさえ接点のなかった美織が、蒼汰の親友である恭平のことを知っているのには違和感があった。

(いいや、恭平は俺の事故の後に水泳部の部長になったりしている。同じ高校の中に居るわけだし、俺が知らない間に出逢ってるのかもな)

 蒼汰は恭平の幼馴染だ。
 憧れの人物である恭平に近づくために、美織は蒼汰に近付いたのだろうか?

(やっぱり俺に興味があって近づいてきたわけじゃなかったのか)

 そもそも天文学部の勧誘とやらのために今日も来ると話してたじゃないか。
 妙な期待を抱いてはいけないと思いつつも、なんだか漠然と胸の内が靄ついてしまった。

「恭平との架け橋みたいにはなれないぞ、俺は」

 蒼汰のボヤキに美織が反応した。

「恭平? 架け橋? なんのこと」

「お前の憧れの水泳選手」

「そんな名前じゃないよ?」

 どうやら蒼汰の杞憂に終わったようだ。
 心の奥深くで安堵している自分に気づいてしまい、バツが悪くなって、蒼汰はそっぽを向いた。

「別に」

 美織が眉を八の字に下げた。まるで困った小型犬のような表情だ。

「ごめんね、憧れの人に似てたからとか、そういうのも嫌だよね」

 どうやら美織は自分の発言のせいで、蒼汰が機嫌を損ねたと思ったようだ。

「いいや、別に良いさ、暗かったし遠目で見たら似てることなんてあるだろうしな」

 すると、機嫌を良くした美織が膝を抱えたまま身体を前後に揺り動かしはじめた。どうやら機嫌を良くしたようだ。

(なんか美少女だが、病弱なせいもあってか、幼いとこが目立つな)

 蒼汰が、そんなことを思っていたら――

「きゃんっ!」

 前後運動の反動で、美織が背中からひっくり返ろうとしている。背後は砂だから怪我はしないはずだが、蒼汰の身体が反射で動いていた。

「危ない!」

 彼女の背中にそっと腕を回して抱き寄せる。
 すると、思いがけず密着する格好となった。少し動けば唇が触れそうなほどに顔も近い。
 蒼汰の鼓動が高鳴っていく。平静を保とうとする彼とは対照的に、美織は驚愕の表情を浮かべていた。

「やっぱり昨日までのは夢じゃなくて、君は私に触れることができるの!?」

「ああ? 何がおかしいんだよ? なんだ? やっぱりお前は幽霊なのかよ」

 
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...