満天の星の下、消えゆく君と恋をする

おうぎまちこ(あきたこまち)

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第2章 月の引力で君と惹かれ合う

7-2

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「ちっ、なんだよ、人のことからかいやがって」

 蒼汰は色黒で良かったと思う。きっと恥ずかしくて顔が赤くなっているだろうから。
 ひとしきり笑い転げた後、美織が浮かんだ涙を人差し指でそっとぬぐう。そうして、静かになった後に口を開いた。

「実はさ、私、留年してるんだ」

「え?」

 思いがけない言葉を掛けられて、勢い込んで美織の方を振り向いてしまった。

「だから、学校では幽霊みたいな存在なの」

 美織の姿を上から下まで眺めてみる。
 そもそもちゃんと足はあるし、幽霊の類ではないのは明白だ。
 それはそうとして、見た目は清潔に整っていて、素行不良の女子高生には見えない。
 だとすれば、考えられる留年の理由は……
 美織が首を傾げながら告げた。

「見ての通り、美人薄命ってやつ? 私さ、子どもの頃からあまり丈夫じゃなくて、それでね、入退院を何度も繰り返してたの。そうしたら、出席日数が足りなくて。補講も何度も受けたけど、結局留年しちゃった。だからまだ、高校二年生なんだよ」

 病気で留年しているとなれば、正直すごく深刻な内容のはずなのに、美織は笑って話してきた。
 相手が言いづらい内容の話を切り出してきたため、どう答えるのが最善なのか迷ってしまい、結局何も返すことが出来なくなった。

(本人もあっけらかんとしているから大丈夫なのか?)

 それとも、心の中では泣いているんだとしたら、余計な発言をしては、相手を傷つけてしまうかもしれない。
 だけど、沈黙は苦手だ。
 ひとしきり考えあぐねた後、蒼汰は一度唾を飲み込むと、美織にぶっきらぼうに返した。

「なんで、俺にそんな話をするんだよ? ほとんど初対面に近い相手だぞ。別にお前の秘密を知りたくて、機嫌を損ねたんじゃない。言いたくないことなら、無理に言わなくたって、俺は困らないんだ」

「だって、君のことばっかり私だけが知ってて、なんだかフェアじゃないなって思ったんだよ」

「そうか……」

 蒼汰に気を遣ってか、美織は自分のことを話してくれたのだろう。

(自分の不幸にばかり気を取られて、相手に何か事情があるなんて、気遣うことができなかったな)

 この数日の自分を思い出して、蒼汰は恥じた。

「ごめんね、こんな急に暗い話をしちゃって」

「いいや、俺の方こそ悪かった」
 
 蒼汰が素直に謝ると、美織が穏やかに微笑んだ。
 しばらくの間、二人してだんまりになる。
 今の静けさは嫌いな静けさではない。
 潮騒が、まるで子守唄のように優しかった。

「っていうことは、お前は俺とタメってことになるな」

「そう、そうなの!」

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