満天の星の下、消えゆく君と恋をする

おうぎまちこ(あきたこまち)

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第2章 月の引力で君と惹かれ合う

6-3

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 そんなにたくさん走ったわけではないけれど肩で息をしている美織が、ふんわりと微笑みかけてきた。

「ふふ、楽しみにしてくれたのなら嬉しいな」

 彼女が少しだけ揶揄うような口調で話しかけて来るものだから、蒼汰はなんだか癪で、その場で腕を解いて返事をしてやりたくなかった。拗ねているだけだと自分でも分かってはいるけれども。

「ちゃんと約束通り、今日も来たよ」

 美織が猫のようなしなやかな動きで、さっと寝転がる蒼汰の隣に膝を抱えて座ってくると、膝の上に頭をちょこんと載せて悪戯っぽい表情で覗き込んでくる。
 蒼汰はそれでも負けじと腕を解かずに過ごしていたが、ひしひしと相手の視線を感じてしまい、根負けした。
 蒼汰は腕を動かして瞳をチラリと覗かせると美織相手にぼやいた。

「ちゃんと天文学部の活動をしにきたのかよ? それともまた俺の天体観測の邪魔をしに来たんじゃねえだろうな?」

「邪魔ってなによ、失礼なんだから! 寂しがり屋の君に会いに来てあげたのに!」

「別に寂しがってるわけじゃねえよ!」

「だって、君、全然昔と変わってないのに、変わってるんだもん! なんだか儚げっていうかさ」

 全然昔と変わっていない?
 彼女の口から発せられた言葉に、ドキリと大きく心臓が跳ね上がった。

(まさか美織は俺のことを知っているのか?)

 そもそも蒼汰は島の中で期待のアスリートだったわけだから、知られていたとしてもおかしくはないのだが……

「なんだよ、お前、まるで俺のことを知っている風な口を聴いてくるなよ」

 先ほどまでは機嫌が良かったのに、思いがけず獣の唸り声のような声音になってしまった。
 すると、先ほどまで騒がしかった美織がピタリと静止した。

(まずい、言い方がきつかったかもしれない)

 他の男子生徒に比べるとがっちりした体格で水泳で焼けて色も黒かったから、威圧感がある。
 そんな風にクラスメイトから言われていた。
 だから、なるべく強い口調にならないように気をつけていたというのに。

「悪い、今のは……」

 蒼汰が両眼を覆っていた腕をパッと退けると、美織が真剣な眼差しでこちらを見据えてきていたのに気づいてしまった。
 彼女の見せる大人びた表情に、蒼汰の心臓がドクンと跳ね上がる。

「ごめんね、自分の知らないところで、自分のことを知られたり、知っているって態度とられたら嫌だよね?」

 謝罪してくる彼女の声音は真剣そのもので、蒼汰は圧倒されてしまった。

「いいや、今のは俺も言い方が悪かった」

 すると、彼女が続ける。

「失礼を承知で聞きたいんだけど……」

「なんだ?」

 そうして、美織が口を開く。

「君は、もう泳がないの?」

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