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第1章 満天の星の下、儚げな君と出会う
5-1 海が怖い二人
しおりを挟む夏の夜の砂浜で、蒼汰の二の腕に美織がしなだれかかってきた。
悩まし気に眉根を寄せて、縋るような視線を向けられると、「会いたい理由がないのはダメだ」と言いたかったはずなのに、なぜだか伝えるのを躊躇ってしまった。
「離れろ!」
そんな風に言えば良かったのに、妙な期待で頭がのぼせたみたいになって、何も言えなくなった。
蒼汰と美織の間には体格差だってある。振り解こうと思えばできるはずなのに、どうしてだか、メデューサに睨まれて石化でもしてしまったかのように、相手を振り払うことができなくなった。
そうして、出てきた言葉は……
「別に」
「別に」ってなんだよと自分自身にツッコミを入れてしまうが後の祭りだ。
美織の瞳がやけに潤んでとろんとして見える。
そうして、彼女の顔がゆっくりと蒼汰の顔に近づいてくる。
(まさか、キスされるんじゃ……!?)
据え膳食わぬは男の恥というが、今がまさにその状況なのではなかろうか?
口から心臓が飛び出てくるのではないかというぐらい落ち着かない。
そうして、鼻先が触れ合いそうになった、その時――
蒼汰の眼前で、美織が口を開けて笑いかけてきた。
「もちろん会いたかったよ。だって、せっかく新入部員になりそうな人を見つけたんだから、勧誘したいに決まってるじゃない!」
両手を上げてはしゃぐ彼女の姿を見て、蒼汰は内心がっくりと肩を落とした。
(なんだよ、やっぱりそういうことかよ)
自分に会いたいと言われて嫌な気はしなかったが、結局そういうオチか。
蒼汰は思わずぼやいてしまう。
「まあ、それもそうか。こんな綺麗な女子が、もう何もない俺を相手にしてくるはずがないよな」
美織が不思議そうに首を傾げていた。
「え? なになに? どうしたの?」
「……なんでもないよ」
蒼汰はバツが悪そうに髪をガリガリとかくと、美織から視線を逸らした。
「昨日の続きだよ。せっかくだから入部してほしんだけどな?」
部員は美織だけだという天文学部。
水泳の夢も絶たれたことだし、なんとなく星に興味を持っている。
だから、相手の願いを無下にする必要はないのだけれど、なんとなくムシャクシャしてしまって、蒼汰はぶっきらぼうに返した。
「俺に何の得もねえから、嫌だね」
「むう、そりゃあ損得で考えたら、得することはないかもしれないけれど。君って合理主義者なの?」
「合理主義者? そんな風に誰かに言われたのは初めてだな。まあ、なんだ、無駄なことはもうしたくないなって。時間もったいないし。なんとなくな」
……無駄なこと。
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