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第1章 満天の星の下、儚げな君と出会う

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「あ、今日はちゃんとレンズの焦点を合わせて観れてるみたいだね、良かった」

 彼女がふんわりと微笑むと、彼の気持ちはとにかく落ち着かない。
 そうして、蒼汰はきゅっと唇を噛み締めると、美織に向かって懲りずにもう一度尋ねる。

「どうしてなんだ?」

「え?」

 こちらを振り向いた彼女に向かって、蒼汰は真剣な眼差しを向けた。

「どうして、ここに来たんだ?」

 二人の間を風が吹くと、サラサラと砂が舞い踊った。
 美織は人差し指を顎に当てて、斜め上に視線を向けながら、しばらく考え込んだ後、ぱっと蒼汰の方へと振り向いた。

「それは、もう一度あなたに会いたかったから」

 美織から月の精霊か天使さながらの笑顔を向けてこられると、蒼汰の鼓動がますます忙しなく鳴り響く。相手に聞こえてやしないかと不安になるぐらいだ。
 蒼汰には水泳で活躍していた頃もあったし、中学高校時代には女子生徒から何度か告白されたことがある。けれども、部活に打ち込みたいからと、誰かと交際することはなかった。友人たちからはもったいないと散々言われたが、個人的には部活の時間が奪われる方が嫌だったのだ。
 それだけストイックだったのに、いざ水泳がなくなったら、こんなにも女性を意識してしまうような、そんな現金なやつだったのだろうか。
 そんな複雑な胸中を悟られたくなくて、ふいっと顔を逸らした。

「俺に会いたいっていうのが分からない」

 そういうと、天体観測を続けるために、地面に再びドカリと座り込んだ。
 その時、美織が猫のようなしなやかな動きで蒼汰の隣に腰かけてきた。

「なんだよ、お前……っ……」

 悪態をついて隣を振り返った蒼汰はハッとなる。
 なぜならば、美織の顔が目と鼻の先にあったからだ。
 この世のものとは思えないほどの綺麗な顔立ちを目にして、蒼汰の鼓動がドクドクと高鳴る。
 そうして、彼女が気まぐれな猫のように肢体をひねると、そっと彼の二の腕に寄り掛かってくる。
 彼女の黒髪がさらりと揺れると、石鹸の香りがふわりと、彼に届いた。

「な、何を……」

 蒼汰の口から素っ頓狂な声が漏れ出た。
 少しでも動けばキスできそうな距離。
 こんなに至近距離に女性がいたのは生まれて初めてだ。
 ドクンドクンドクン。
 美織が蠱惑的な唇をゆっくりと開いた。

「会いたいのは会いたいから。それ以外に理由はないけれど、それじゃあダメ?」

 そうして、彼女が彼の顔にそっと顔を近づけてくる。
 誘惑するような美織の視線から、蒼汰は逃れることが出来なくなったのだった。


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